「お前、給料少ないな。俺は26万円だぞ」
20歳そこそこでトラックの運転手になった佐々木さんが、先輩から言われた言葉です。
自分の月収は25万円。相手は、その会社に10年勤めている人でした。
10年働いて、1万円。
「これは厳しいぞ、と思って」
そこから佐々木さんは、営業の世界へ移ります。リフォーム、そしてインターネット広告。26歳で飛び込んだネット広告の世界に11年いて、2018年3月、自分の会社をつくりました。
その会社——株式会社トリックトラックが手がけたアフィリエイトASPは、創業から6年で年商50億円を超え、2024年11月、米国発のAI企業グループへ全株式を譲渡しています。
いま佐々木さんが代表を務めるのは、株式会社トレンドタウン。
法人向けの生成AIプラットフォーム「LINNE AI(リンネAI)」を、月額9,900円・アカウント数無制限で提供している会社です。
ただ、その道のりは順風満帆ではありませんでした。
創業2〜3年目には、2年以上にわたって4,000〜5,000万円の赤字を出しています。自分の貯金を会社に入れても、残高は減っていくばかりでした。
「減る、という感覚が、とにかく嫌でしたね」
トラックの運転席から、生成AIの会社まで。
「社長と呼ぶな」と社員に言う経営者の、20年分の話です。
社員にPCを配るように、生成AIを配る
Qまず、現在はどのような事業をされているのでしょうか?
AI事業とAIコンサルティング事業が中心です。
企業が生成AIを導入し、DXを進めていくところを支援しています。
いまの主力は、法人向けの生成AIプラットフォーム「LINNE AI」です。
月額9,900円から使えて、アカウント数は無制限。企業が全社員に生成AIを配れるように、という設計にしています。
株式会社トレンドタウンの設立は2022年7月4日。所在地は東京都台東区上野。資本金は100万円で、決算月は6月です。登記上の事業内容には、AI事業・AIコンサルティング事業に加えて、広告代理事業、商品開発、デザイン制作、ECサイト開発・受託、通販コンサルティング業務、各種紹介事業が並びます。後で触れるように、佐々木さんのキャリアはインターネット広告と通販でできています。会社の登記は、そのまま経歴書のようになっています。
「LINNE AI」の正式リリースは2026年3月25日。会社の設立から3年近く経ってから世に出た、比較的新しいサービスです。
Q「アカウント数無制限」というのは、かなり思い切った設計に見えます。なぜこの形にされたのでしょうか?
法人で生成AIを入れようとすると、だいたい同じところで止まるんです。
ひとつは、情報漏洩への不安。「うちの機密情報が、外部のAIの学習に使われるんじゃないか」という話です。
ふたつめは、コスト。人数分のライセンスを買おうとすると、それだけで相当な金額になる。
みっつめが、定着です。入れたはいいけれど、「何を入力すればいいのか分からない」で止まってしまう。
この3つを全部つぶさないと、生成AIは会社に根づかないと思っていました。
だから、アカウントは無制限にしましたし、外部学習が起きない環境を企業ごとに用意していますし、業務特化型のAIを最初から搭載しています。
この3つの課題——セキュリティ・コスト・定着——は、リリース時の発表でもそのまま掲げられています。
セキュリティについては、外部学習のスイッチをシステム側で強制的にオフにしたうえで、企業ごとに独立した環境を用意する設計。運用体制はISO/IEC 27001の認証を取得しています。入力したデータが外部のAIモデルの学習に使われることは一切ない、と明記されています。
コストは、月額9,900円(税別)のトライアルプランから、月100万トークン。以降、ベーシック29,000円(300万トークン)、ビジネス49,000円(500万トークン)、プロプランが78,000円(800万トークン)と97,000円(1,000万トークン)。初期費用は99,000円で、契約の縛りはありません。料金が人数ではなくトークン量で決まるため、「使う人を絞る」という発想が要らなくなります。
Q「何を入力すればいいか分からない」という定着の問題は、どう解決されているのでしょうか?
プロンプトに詳しくない人でも使えるように、業務特化型のAIをあらかじめ用意しています。
たとえば、議事録をまとめるAI、提案書をつくるAI、クレーム対応の謝罪メールを書くAI、新人研修用のロープレAI。
「何を書けばいいか」を考えなくても、選んで使えば仕事が終わる状態にしてある、ということです。
自社のデータを読み込ませて、自分たちだけのAIをつくることもできます。
アップロードして2クリックで完成します。
搭載されているカスタムチャットは60種類以上。営業(議事録AI・提案書AI・アジェンダAI)、CS対応(クレーム対応AI)、新人研修(新人研修AI・ロープレAI)、経営管理(社長インタビューAI・ハラスメント研修AI)、マーケティング(プレスリリース作成AI・ランディングページ作成AI)など、部署ごとに用途が割り当てられています。
管理者向けのダッシュボードで、社内の誰がどれだけ使っているかを把握できる点も特徴です。「配って終わり」にせず、ガバナンスの目線で運用状況を見られるようにしてある。導入の流れは、問い合わせ・ヒアリング・提案・発注を経て、3営業日以内に運用開始とされています。
Q御社ならではの強みは、どこにあるとお考えでしょうか?
「高性能なAIを提供すること」ではなく、「現場で実際に使われること」を重視している点だと思っています。
生成AIを導入しても、結局は一部の詳しい社員しか使っていない、という会社は本当に多いんです。
私たちがやろうとしているのは、環境を用意して、使い方を教えて、業務に定着させるところまでです。
AIコンサルだけの会社でもないし、SaaSだけの会社でもないし、研修会社でもない。
その3つを一気通貫でやっている、というのが一番の特徴だと思います。
Q2026年8月には、マルチAI対応とeラーニングが立て続けに発表されていますね。狙いを教えていただけますか?
8月に、ChatGPT系のモデルに加えて、GeminiとClaudeも使えるようにしました。追加料金はいただいていません。
AIによって得意なことが違うので、1つに縛られない環境をつくりたかった。かといって、企業が3社と個別に契約したら、コストも管理も大変になりますから。
同じ8月に、生成AI特化型のeラーニング「トレンドAIアカデミア」も始めました。
ツールを渡すだけでは足りない、というのは前からずっと感じていたところなので。
マルチAI対応の発表は2026年8月31日。Gemini(最新情報の取得、資料読解・データ整理に強い)、Claude(自然な日本語生成、長文読解・ビジネス文書作成に定評)を、チャット画面から切り替えて使える形です。新たに搭載されたモデルも、同じく外部学習を遮断した法人専用環境で動きます。既存契約者は手続き不要で、そのまま使えるようになりました。
「トレンドAIアカデミア」のリリースは2026年8月3日。初期費用は無料で、月額は受講者数×7,000〜10,000円。500名以下の企業向けには月額25万円の使い放題プランがあり、各種助成金との併用も可能とされています。カリキュラムは、生成AIの基礎知識からセキュリティ対策、実務で使えるプロンプト作成のコツまで。専門用語をかみ砕いた動画で構成されています。「LINNE AI」の契約企業は、導入から1ヶ月間は無料で、期間が終わっても自動で有料に切り替わることはありません。
ツールを売って、使い方を教える。その2つが、8月のひと月に揃ったことになります。
Q業界団体での活動もされていると伺いましたが、どのような関わり方でしょうか?
2026年に、日本AI業務(Ops)活用協会の評議員に就任しました。
自社のサービスを売るだけではなく、生成AIを日本の企業の実務にどう定着させるか、というテーマで業界全体にも関わっていきたいと思っています。
同協会は、「生成AIを導入したものの、現場業務への組み込み方が分からない」という課題に、実践的な観点から取り組むコンソーシアムです。トレンドタウンは評議員として、「LINNE AI」の提供を通じて得たAI活用事例やプロンプトの知見を共有し、全国の先進事例をサービスのアップデートに反映させ、安全なAI活用の啓蒙を行う、という3つの役割を担うとされています。
就任の背景として発表文に書かれているのは、同社のミッション「テクノロジーの恩恵を、すべての現場へ」と協会の理念が共鳴した、ということでした。
さらに2026年度には、一般社団法人企業価値調査機構による「2026年度SMB Excellent企業賞 AIコンサルティング部門」を受賞しています。「LINNE AI」をはじめとする、中小・中堅企業の生成AI活用支援が評価されたものです。主戦場をどこに置いているかが、受賞部門にそのまま表れています。
Q今後、実現したいことは何でしょうか?
足元は、まずサービスの拡販です。そこは正直なところ、まだこれからです。
そのうえで、会社として掲げているミッションは「テクノロジーの恩恵を、すべての現場へ」。
一部のIT人材だけではなく、普通の社員が当たり前のようにAIを使える環境をつくりたいと思っています。
ビジョンは「人が、人ならではの創造力に集中できる社会へ」です。
事務作業や、ゼロからのアイデア出し。そういうものはAIに任せて、人間はお客さまとのコミュニケーションや、創造的な仕事に時間を使う。そういう分担にしていきたい。
だから私たちがやろうとしているのは、単なる人員削減とか業務効率化ではないんです。
AIによって、人間の仕事そのものを、人にしかできない領域に寄せていくこと。そちらのほうが本筋だと思っています。
Qその状態を、ひと言で言うとどうなりますか?
「社員にPCを配布するように、生成AIを社員に配布する時代へ」ということです。
AIを特殊なツールのままにしておきたくない。
PCやメールやインターネットと同じくらい、当たり前の仕事道具にする。そこはかなり明確なゴールとして置いています。
社員にPCを配布するように、生成AIを社員に配布する時代へ。

10年勤めて、月に1万円
Q学生時代は、どんな方だったのでしょうか?
特に何も考えていませんでした。
将来こうなりたい、という方向性もなかったですし、「自分がごはんを食べていければいいかな」くらいの温度感でしたね。
いま振り返っても、本当にその程度です。
Q最初の仕事は何だったのでしょうか?
トラックの運転手です。
自分ひとりで生きていくには、悪くない仕事でした。
黙々と運転していれば給料はもらえるし、生活はできる。当時の自分には、それで十分だったんです。
Qそこから、考えが変わるきっかけがあったのでしょうか?
先輩に「月収いくら?」と聞かれたことがあったんです。
「25万円です」と答えたら、「お前、給料少ないな。俺は26万円だぞ」と言われました。
その人、10年勤めている人だったんですよ。
10年で1万円しか増えないのか、と。
これは厳しいぞ、と思いました。
自分ひとりが食べていければいい、という前提そのものが崩れた瞬間だったと思います。
収入を上げていくには、この仕事の延長線上ではだめだ、と。
10年勤めた先輩の月収が、自分より1万円だけ高い。
それは一人の先輩の話であると同時に、その仕事の「天井」を数字で見せられた出来事でもありました。佐々木さんはここで、業種そのものを変える判断をします。
Qそこから、営業の世界へ?
はい。収入を上げるなら営業だろう、ということで、リフォームの会社に入りました。
ここで初めて、ある程度「夢が見れる」状況になったんです。
結果を出せば、その分もらえる。やった分が返ってくる仕事に、初めて就いたということですね。
Qそれでも、次の会社へ移られたのはなぜでしょうか?
26歳のときに、インターネット広告代理業に飛び込みました。
理由はいくつかあります。
ひとつは、扱う数字の桁が大きかったこと。これが単純に面白かった。
もうひとつは、利益です。リフォームのときの10倍以上ありました。
Q実際に入られて、いかがでしたか?
2年で部長職になりました。
そこからネット広告の面白さを知って、結果的に10年以上勤めることになります。
マネジメントもやりましたし、新規事業の立ち上げもやりました。社内で通販事業を立ち上げて、月商1億円を超えたこともあります。
佐々木さんがインターネット系の広告代理店で働き始めたのは2005年から。2009年には、同社の営業部長を務めながら、社内で通販事業を立ち上げています。「2年で部長職」「通販事業で月商1億円超え」という話は、後年のM&Aに関する公開情報でも経歴として確認できます。
このときの通販の経験が、のちの独立後の事業に直結します。自分の会社で手がけたアフィリエイトASPは、売上の9割以上がEC事業者でした。「EC事業者の課題が分かる」という強みは、この時期に仕込まれたものです。
「10年で1万円しか増えないのは、厳しいぞ」——20歳の判断が、その後の20年を決めた。
「自分のリソースでやってきた」と気づいた日
Q11年、同じ会社にいらっしゃった。辞めようと思ったのは、なぜでしょうか?
社内での立ち位置が、だいたいNo.3くらいになっていたんです。
そうすると、レベルアップしている感じがしなくなってくる。
新しいビジネスモデルやアイデアを持っていっても、上で却下される。
その2つが重なって、ここにいても伸びないな、と思うようになりました。
Qそこから、すぐ転職を?
いえ、まず「自分の社会的な評価はどうなんだろう」と思ったんです。
広告業に11年いた自分に、市場でどれくらいの値段がつくのか。
それを知りたくて、まったく縁のない会社を受けてみました。
Q結果はいかがでしたか?
内定率が7〜8割でした。めちゃくちゃ高かったんです。
しかもマネージャークラスでのオファーも来る。
思っていたより市場価値があるんだな、というのが率直な感想でした。
11年という在籍年数は、キャリアの選択肢を狭めるようにも見えます。実際には逆でした。
ここで佐々木さんが得たのは転職先ではなく、「自分の値段」という情報です。この確認作業が、のちの独立の判断材料になっていきます。
Q実際に移られた会社は、どんなところだったのでしょうか?
広告代理店です。
「自分が持っているクライアント、自分のメディアで勝負しろ」というスタンスの会社でした。
ただ、給料の不払いが起きてしまって。
それで、辞めることになりました。
Qそのあとは?
また似たような広告代理店に入りました。同じように、「自分の持っているもので勝負しろ」という会社です。
そこでは事業がうまくいって、3ヶ月で月商1億円を超えました。
Q3ヶ月で、ですか?
はい。
ただ、そのあとですね。
その会社の社長が、システム会社を買ったんです。
買ったはいいけれど、そこに何をやらせるかが決まっていなかった。それで、よく分からないツールが開発されて、「これを月1万円で売ってこい」と。
そのうえで、「今の売上はそっちに引き継げ」と言われました。
Qそれは、受け入れがたい話だったのではないでしょうか?
「いやだ」となりました。
そのとき、はっきり思ったんです。
これは全部、自分のリソースを使ってやってきたことじゃないか、と。
だったら、自分でやろう、と。
Qそれが、起業のきっかけだったのでしょうか?
そうです。2018年3月に会社をつくりました。
正直に言うと、最後の会社がああいうことを言わなかったら、起業していないと思います。
起業したくてした、というよりは、そうせざるをえなかった、というほうが近いですね。
この会社が、株式会社トリックトラックです。設立は2018年3月。佐々木さんは2024年11月まで、同社の代表取締役を務めました。
「起業したかったわけではない」という言い方は、謙遜ではなさそうです。11年勤めた会社を出たのも、その後の2社を出たのも、自分から仕掛けた話ではありませんでした。転職市場で自分の値段を確かめ、給料の不払いに遭い、自分がつくった売上の付け替えを命じられる。その連続の末に、選択肢が独立しか残らなかった、という順序です。
Q会社をつくって、最初に考えたことは何でしたか?
せっかく株式会社としてやるのだから、大きくしよう、と思いました。
それで2年目に、人を一気に3人入れたんです。
そこから、ことごとく赤字になりました。
「起業したくてした、というよりは、そうせざるをえなかった」

4,000万円が、減っていく
Qこれまでで一番苦しかった時期は、いつでしょうか?
創業2〜3年目の、お金がなかった頃です。
それまでは、売上も利益もありましたし、そもそもお金を借りるつもりがまったくなかったんです。
自分のところで回している感覚でした。
そこに従業員が3人増えて、でも売上は増えなかった。
そのうえ、教育コストがかかる。
Q人を増やしても、すぐに戦力になるわけではなかったということでしょうか?
そうなんです。教える必要があるので、むしろ自分が忙しくなる。
結果として、ストックしていたお金がどんどん減っていきました。
足りなくなって、自分の貯金も会社に入れました。それでも減っていく。
Qそのときの感覚を、言葉にするとどうなりますか?
「減る」という感覚が、とにかく嫌でしたね。
サラリーマンでは味わえない感覚だと思います。
毎月、数字が下に向かっている。それをずっと見ている状態でした。
赤字は2年以上続き、累計で4,000〜5,000万円になりました。
Qどうやって乗り越えられたのでしょうか?
ひとつは、借入です。もともと借りるつもりはなかったのですが、そうも言っていられなくなりました。
もうひとつが、採用の方針転換です。
自分たちよりもできるメンバーを入れていこう、と切り替えました。
Qそれまでとは、どう違うのでしょうか?
できる人は、いきなり数字を出すわけではないですし、コストも高いんです。
その2つを飲み込めるかどうか、という話でした。
でも、そこから事業は一気に好転しました。
本当に、切り替えてからです。
Q具体的には、どう変わっていったのでしょうか?
アフィリエイトASPを立ち上げました。
最初は赤字でしたが、最終的に売却するときには、年商50億円くらいまで行っていました。2024年11月のことです。
創業から、6年ですね。
数字を補っておきます。トリックトラックがアフィリエイトASP「TRICTRAC」を開始したのは2021年1月。そこから4年足らずで年商50億円を突破しました。日本のアフィリエイトマーケティング市場で1%強のシェアを持つところまで伸びています。
2024年11月8日、AI/機械学習とデータサイエンスに特化した米国企業MoBagel Inc.の日本子会社であるSolve AI株式会社が、トリックトラックの全株式を取得しました。佐々木さんはこのM&Aを機に同社の代表を退任しています。
M&Aを検討した理由について、佐々木さんは当時、「トリックトラックをさらに成長させたい」というのが大きな動機だったと語っています。「当社は小規模な組織でしたし、アフィリエイトASPでは他社サービスと差をつけるのもなかなか難しかった」。当初は融資を検討していたものの、必要なリソースを持つ企業に加わる道を選んだ、という経緯でした。
Q売却したあとは、どうされたのでしょうか?
一定のキャッシュを得たので、そこから再投資をしていくフェーズに入りました。
いまがそのフェーズです。
トレンドタウンは3名の会社です。
去年の12月から「LINNE AI」の開発を始めて、3ヶ月でできて、3月25日から販売を開始しました。8月3日からeラーニングも始めています。
もう1社、オメガドライブという会社が14名います。
こちらはAIを活用して、書籍をつくったり、YouTubeの動画を生成したりしています。
株式会社オメガドライブの設立は2023年7月。所在地はトレンドタウンと同じ、台東区上野の長谷川ビル3Fです。資本金は500万円。事業内容には、広告代理事業や広告運用事業、WEBデザイン、ECサイト開発、SEO事業に加えて、「生成AIを活用した書籍出版事業」「YouTubeチャンネル運営」が並びます。同社も2026年度のSMB Excellent企業賞を、AIコンテンツ制作部門で受賞しています。
つまり、いまの佐々木さんは「AIを配る会社」と「AIでコンテンツをつくる会社」を並走させている状態です。3名と14名。売却で得た資金を、その2つに投じている段階にあたります。
Qこの失敗から得た学びは、何だったのでしょうか?
「会社が人を雇用するって、こういうことか」というのが、まず身体で分かりました。
そして、採用はすごく重要だ、ということです。
あの2年があったから、自分の中で採用基準が明確になっていきました。
いま思えば、4,000万円を払って学んだようなものです。
「減る、という感覚が、とにかく嫌でした」——4,000万円の赤字が、採用基準に変わるまで。
「社長」と呼ばれたくない
Qこれまでで、最も大きな転機は何だったのでしょうか?
会社経営をした、そのタイミングそのものですね。
それまで分からなかったことが、分かるようになりました。
特に大きかったのは、お金の仕組みをイメージできるようになったことです。
Q会社員のときとは、何が違ったのでしょうか?
会社員だと、「給料をもらう」「額面を増やす」という発想になるんです。
お金の話が、自分の口座の中だけで完結してしまう。
経営者になってからは、そのためのアイデアが具体的になりました。
どこからお金が入って、どこに出ていって、どうすれば増えるのか。その全体像が見えるようになった、という感覚です。
Qその経験で、変わった価値観はありますか?
「社長って、言うほどすごくないな」ということですね。
従業員だった頃は、社長ってすごい、偉い、と思っていたんです。
でも、自分自身がなってみたら、そうでもなかった。
だから、そうでもないんだな、と。
Qそれは、いまの経営にも影響していますか?
社員には、「自分のことを社長と呼ぶな」と言っています。
自分はまだ、世の中のすごい社長の器じゃない、と思っているので。
肩書きで呼ばれることに、あまり意味を感じないんです。
年商50億円の事業をつくり、M&Aで売却し、いま2社を経営している。
そういう経歴の持ち主が、「社長と呼ぶな」と言う。ここには謙遜以上のものがありそうです。10年勤めて月収が1万円しか違わなかった先輩を見て仕事を変えた人が、20年後に「肩書きは、たいした情報ではない」と言っている。数字と実態を見る癖が、そのまま自分自身にも向いている、ということなのだと思います。
「自分はまだ、世の中のすごい社長の器じゃない」

勉強は、頭を使う練習
Qこれから社会に出る若者に、最も伝えたいことは何でしょうか?
学生には、「勉強したほうがいい」と伝えたいです。
Q意外な答えのようにも聞こえます。それは、なぜでしょうか?
勉強って、社会に出てから頭を使うための練習なんですよ。
勉強すればするほど頭の回転が速くなって、応用が効くようになる。
学歴とか、単純な勉強量とか、そういうものは大事だと思っています。
私自身は学歴がないので、なおさらそう思います。
自分の子どもには、学歴を持たせたいと思っていますし。
Q社会に出てからも、その差は出るものでしょうか?
どういう会社で働くにせよ、頭の回転は求められます。
だから、その練習としてやっておいたほうがいい。
「勉強した内容が仕事で直接使えるか」という話ではなくて、頭を速く回す訓練としての勉強です。
「自分は学歴がない」と語る人が、子どもには学歴を持たせたいと言う。
ここには、20歳のときに月収1万円の差を突きつけられた人の実感が入っているように見えます。持っていないものの価値は、持っていない側のほうが正確に見積もれることがあります。
Q新社会人には、どんなことを伝えたいでしょうか?
「1つの会社に40年勤めて定年」という時代ではもうない、ということです。
お見合いみたいな感じで、その会社との相性を見たほうがいい。
転職も1つの方向性として受け入れられる時代ですし、いい会社と巡り会えたらいいですね、と思います。
佐々木さん自身、11年勤めた会社を出たあと、2社を経て独立しています。そのうち1社では給料の不払いに遭っています。「相性を見たほうがいい」という言葉には、実際に見誤った経験も含まれているはずです。
そして、転職活動で知った「内定率7〜8割」という数字。
自分の市場価値を確かめる作業が、結果的に独立の判断につながりました。会社を選ぶというのは、自分がどこで値段がつく人間なのかを確かめ続けることでもあります。
「1つの会社に40年勤めて定年、という時代ではもうない。お見合いみたいに、相性を見たほうがいい」
EDITOR'S NOTE / 編集後記
インタビューの前半と後半で、語り口がはっきり変わった取材でした。
前半、「LINNE AI」の話をしているときの佐々木さんは、課題の整理が非常に明快です。セキュリティ、コスト、定着。この3つを潰さないと生成AIは会社に根づかない、という話は、そのままプロダクトの設計になっています。アカウント無制限も、業務特化型AIの標準搭載も、すべて同じ一本の線の上にあります。
後半、ご自身の20年を振り返るときの言葉は、対照的に淡々としていました。
20歳のときに、10年勤めた先輩の月収が自分より1万円高いだけだと知って仕事を変えた。創業2〜3年目に4,000〜5,000万円の赤字を出して、自分の貯金が減っていくのを見続けた。年商50億円の事業を売却して、いまは3名と14名の2社で再投資をしている。
数字を、いいものも悪いものも同じ調子で口にする人でした。
「社長と呼ぶな」という言葉も、同じ流れで理解できます。
肩書きは実態を表さない、と知っている人の言い方です。従業員だった頃は社長を偉いと思っていた。自分がなってみたら、そうでもなかった。だから、そう呼ばせない。
若い読者に向けたメッセージが「勉強したほうがいい」だったのも、この人らしいところでした。
学歴がない、と本人が言う。だから子どもには持たせたい、と続ける。持っていないものの価値を、持っていない側から正確に語っている。
トラックの運転席から始まったキャリアが、いま「全社員にAIを配る」という事業に着地しています。
その間にあったのは、才能の話ではなく、天井が見えたら業種ごと変える、という判断の連続でした。
トラックの運転手として社会に出たのち、リフォーム営業を経て、26歳でインターネット広告代理業へ。2005年よりインターネット系広告代理店に勤務し、2年で部長職に就任。2009年には営業部長を務めながら社内で通販事業を立ち上げ、月商1億円超を記録する。広告業界で11年のキャリアを積んだのち、2018年3月に株式会社トリックトラックを設立。2021年1月に開始したアフィリエイトASP「TRICTRAC」は年商50億円規模まで成長し、2024年11月、米国MoBagel Inc.グループへ全株式を譲渡した。
2022年7月、株式会社トレンドタウンを設立。2026年3月、法人向け生成AIプラットフォーム「LINNE AI」を提供開始。同年8月、生成AI特化型eラーニング「トレンドAIアカデミア」を開始した。2026年、日本AI業務(Ops)活用協会 評議員に就任。同年度「SMB Excellent企業賞 AIコンサルティング部門」受賞。2023年7月設立の株式会社オメガドライブ(生成AIを活用した書籍出版事業・YouTubeチャンネル運営ほか)の代表取締役も務める。
株式会社トレンドタウン
設立:2022年7月4日
所在地:東京都台東区上野1-2-6 長谷川ビル3F
資本金:100万円
事業内容:AI事業/AIコンサルティング事業/広告代理事業/商品開発/デザイン制作/ECサイト開発、受託/通販コンサルティング業務/各種紹介事業
MISSION:テクノロジーの恩恵を、すべての現場へ
VISION:人が、人ならではの創造力に集中できる社会へ
コーポレートサイト:https://trtown.co.jp/
LINNE AI:https://trtown.co.jp/linne-ai/
