勝てない、と思った。だから、リスクを背負った——元経済産業省・吹上由樹がAI導入支援に賭けるまで – ZEROWORKS(ゼロワークス)
EXECUTIVE INTERVIEW
No.058
EXECUTIVE INTERVIEW

経済産業省を辞めて、AI導入の現場へ

COMPANY
株式会社Lean Stack
NAME
吹上 由樹
CATEGORY
AI・DX
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75 Views#元経産省#余白をつくる#意思決定の連続

大分県庁と、経済産業省。二十二歳のとき、その両方に合格しました。

家系は、市役所の職員と、銀行員。自分で仕事を興した人は、周りに一人もいませんでした。だから当然のように、自分も公務員か会社員になるものだと思っていたといいます。大学では有料の公務員講座に通い、サークルとアルバイトをして、インターンには一度も行かなかった。

計画どおりでした。先に大分県庁に受かり、三か月ほど後ろ倒しになった国家公務員試験にも受かった。二十年余りの人生で、いちばん大きな二つの合格通知が、続けて届いたことになります。

嬉しかった。ただ、同時にこうも思ったそうです。

「こんなもんか」

株式会社Lean Stack 代表取締役、吹上 由樹さん。2021年4月に新卒で経済産業省へ入省し、2023年7月に退職。同年9月に、いまの会社を設立しました。手がけているのは、企業へのAI導入・DX推進の支援です。とくに力を入れているのが、社労士事務所に特化したAI・DX支援サービス「ヨハクル」。

会社が掲げている言葉は、「AXが導く、『アナログ価値』の最大化」。AIに任せられるものは徹底的に任せて、人にしかできない仕事のための時間を取り戻す、という意味です。

なぜ、県庁と霞が関を手にした人が、そこから降りたのか。そして、なぜ「余白」を売る会社をつくったのか。

「勝とうと思っても、勝てない。それまで味わったことのない感覚でした」

01
SECTION 01

余白を、つくる。

まず、いまの事業から伺いました。

Q現在、どのような事業をなさっているのでしょうか?

企業向けのAI導入・DX推進の支援を中心にしています。

AI活用のコンサルティング、研修、それからシステム開発ですね。

Qいま、とくに力を入れていらっしゃるのはどちらでしょうか?

社労士事務所向けのAI・DX支援サービスで、「ヨハクル」というものです。

給与計算、助成金の申請、就業規則、各種の書類チェック。社労士の先生方ならではの業務を、AIで効率化していきます。

サービス名は、「業務に余白を作る」から来ています。リリースは2025年12月27日。社労士事務所に特化したDX支援として、正式に立ち上がりました。サイトのトップには、こう書かれています。

「就業規則・給与計算・助成金 —— 事務所ごとにカスタマイズしたAIが一括で効率化を実現。生み出した時間で『新たな売上づくり』を。社労士の毎日に、"余白"と"成長"を」

「余白」という言葉が、繰り返し出てきます。そして、その余白をつくるための設計が、かなり細かい。

ヨハクルのサイトに掲載されている料金の構造は、二段構えになっています。まず準備期間として、月額30万円(税抜)を2か月。この2か月で、事務所の業務の棚卸しと、その事務所専用のカスタムAIの構築を行います。そのうえで、1回1.5時間の実践研修を全9回。こちらが1名あたり40万円(税抜)。研修より先に、土台をつくる順番になっています。

研修のカリキュラムも公表されています。第1回がCursorの環境構築と、社労士業務に特化したプロンプトの習得。第2回で給与データの構造解析、第3回・第4回で給与計算の自動チェックと自動修正。第5回はPDFの出勤簿を画像に変換してAIに読み取らせ、所定外・法定外・深夜・休日の労働時間を自動集計する仕組みづくり。第6回から第8回が申請書類のクロスチェックと助成金の要件判定、申請書類のドラフト作成。そして第9回が、是正報告と運用定着化。

「AIを触ってみましょう」という研修ではありません。給与計算のどの工程を、どう自動化するか、という話が最初から最後まで続きます。

Q社労士以外の業種にも入っていらっしゃるのでしょうか?

はい。社会福祉、人材派遣、建設、医療といった領域でも、AIやDXの支援をしています。

会社のお知らせを追うと、実際の現場が見えてきます。2025年8月29日には、小川工業株式会社で建設業の経営者を対象としたAI研修。11月27日には、同社でGoogle Workspaceの活用研修。11月28日には、社会保険労務士を対象としたAI活用勉強会。この勉強会では、顧問先からのヒアリングシートをAIに読み込ませて就業規則のたたき台を自動生成する方法や、助成金のチャットボットで厚生労働省の情報を扱う方法が扱われています。

会社は、大阪本社と東京オフィスの二拠点。従業員は業務委託を含めて10名。2026年2月19日に情報セキュリティの国際規格ISO/IEC 27001の認証を取得し、3月2日には経済産業省のDX認定事業者に認定されています。

補助金を出す側にいた人が、いまは認定を受ける側にいる、ということになります。

「業務に、余白をつくる」

02
SECTION 02

AIを入れることが、ゴールではない。

支援会社は数多くあります。その中で、何が違うのか。

Q御社ならではの強みは、どこにあるとお考えでしょうか?

いちばん特徴的なのは、「AIを入れること」ではなく、「現場の仕事が本当に変わること」をゴールにしているところだと思います。

最新のAIツールを紹介して終わり、ということはしません。

まず、いまの業務をどうやっているのかを細かく分解します。そのうえで、削減できる作業だけをAIに置き換えていく。

Q業務の棚卸しから始められる、ということでしょうか?

そこからスタートしていくのが、非常に特徴だと思っています。

定着しやすいのは、これがあるからだと考えています。

この考え方は、吹上さんがnoteに書いている文章の中で、もっと強い言葉になって出てきます。

「AI研修は、残念ながら99%、時間とお金の無駄に終わります」

理由として挙げているのは三つ。AIの歴史や機械学習と深層学習の違いといった総論に時間を使ってしまうこと。他社の事例が「他人事」の域を出ないこと。そして一度きりで終わり、続く仕組みがないこと。

そのうえで、こう書いています。

「『AIを学ぶ』という発想を、今すぐ捨ててください。『今ある会社の課題を、AIで解く』という発想に切り替えるのです」

「AIというハンマーを手に入れてから釘を探すのではなく、まず目の前にある『抜きたい釘(=解決したい課題)』を見つける」

順番の話をしています。ツールが先か、課題が先か。ヨハクルが研修の前に2か月かけて業務を棚卸しするのは、この順番を守るためです。

Q社労士のお仕事は、汎用のAIでは対応が難しいのでしょうか?

会社ごと、顧問先ごとに、ルールが違うんです。

なので、事務所ごとのルールを反映した専用のAIを構築しています。

ここが、一般的なAI研修との大きな違いだと思っています。

実際の導入事例を見ると、その「事務所ごとのルール」が何を指しているのかが分かります。

奈良県の社会保険労務士法人フォーシーズンの事例では、まずベテラン担当者の頭の中にあった判断基準を、一つひとつ言葉にしていく作業から始めています。「この顧問先はこう処理する」という個別のルールを聞き取り、誰が見ても判断できる形に整理する。そのうえで、その判断基準を反映した事務所専用のAIを設計した、と書かれています。

結果として、給与計算業務は約80%削減。属人化していた判断基準が形式知になったことで、担当者間の分担も柔軟になった、とあります。同事務所からは、こんな声も紹介されています。

「以前にRPAの構築に挫折した経験があり、導入するのに迷いもありました」

大阪の社会保険労務士事務所アスタリスクでは、就業規則業務が約95%削減。たたき台を作る作業から、AIが作ったたたき台をレビューする業務へと、仕事の中身そのものが入れ替わりました。東京のシンカ社会保険労務士法人では、効率化のインパクトが大きい課題を7項目に整理したうえで全9回の研修を実施し、助成金チェック業務が約80%削減、書類作成・手続き業務が50%以上削減、と公表されています。

メディアに取り上げられた事例では、この給与計算の削減が「2週間から2日へ」という形で紹介されています。月末月初に消えていた2週間が、2日になる。残りの12日が、事務所の「余白」になります。

現場起点であることは、サイトのよくある質問の答え方にも出ています。「パソコンに詳しくないですが、大丈夫ですか?」という問いに対する答えは、「基本は『プロンプト(チャット)入力』なのでIT初心者でも利用可能です」。既存の就業規則ツールとの違いを聞かれた項目では、「業務の棚卸しから運用定着までを一気通貫で伴走します。現場用に簡単なプロンプトとテンプレートを最適化し、運用ルールまで整える点が大きな違いです」と書かれています。

道具の性能を説明するのではなく、その道具が現場で回るかどうかを説明している。強みの置きどころが、一貫しています。

「AIを入れることではなく、現場の仕事が本当に変わること」

03
SECTION 03

市役所と、銀行と。

ここから、時間をさかのぼります。

Q若い頃は、どんな方だったのでしょうか?

市役所の職員や、銀行員。そういう家系で育ちました。

自分で仕事を興していくような人が、いない家系だったんです。

だから自分も、公務員か会社員になるものだと思っていました。

Q学生時代は、どのように過ごされていたのでしょうか?

大学では、有料の公務員講座を受けていました。

サークルもやっていましたし、アルバイトもしていました。

インターンに参加したこともありませんし、就職とか、企業というものに、そもそも縁がなかったです。

起業した人の話を聞くと、幼い頃から商売をしていた、学生時代に事業を立ち上げた、という話が出てくることが少なくありません。吹上さんには、それがありません。

進路は、決まっていました。決まっていた、というより、それ以外の選択肢を知らなかった、という表現のほうが近いのかもしれません。公務員講座に通い、試験の対策をする。その道の先に何があるのかも、おおよそ見えていました。

後に本人が「先生を見つけたもん勝ち」と語るのは、ここが出発点になっています。

吹上 由樹
ゴールだと思って走ってきたのに、着いてみたら、思っていたほどではなかった。
04
SECTION 04

「こんなもんか」。

Q県庁と、経済産業省と、両方に合格されたそうですね?

先に、大分県庁に合格しました。

そのあと、国家公務員の試験が三か月ほど後ろ倒しになって、そちらも合格しました。

Qそのときは、どんなお気持ちだったのでしょうか?

嬉しかったです。

ただ、「こんなもんか」という気持ちも、正直ありました。

Q「こんなもんか」、ですか?

はい。

ゴールだと思って走ってきたのに、着いてみたら、思っていたほどではなかった。

Qそこから、何か変わられたのでしょうか?

試験が終わって時間ができたので、SNSを見るようになりました。それまで、ほとんど触ったことがなかったんです。

そこで、同世代で起業している人たちに触れました。大学4年生の秋ごろです。

それで、考え方が変わりました。

もっと自分でもできるんじゃないか。チャレンジしたら、もっと上に行けるんじゃないか。

大学4年生の秋。多くの学生にとって、進路が確定して、あとは卒業を待つだけの時期です。その時期に、吹上さんは自分の進路の外側を見てしまった。

そして、入省する前から、すでにこう考えていたといいます。

Q入省される前から、独立は考えていらっしゃったのでしょうか?

入省する前から、2〜3年で起業しようかな、とは考えていました。

合格を手にした瞬間に、そこがゴールではないことに気づいてしまった。順番が逆だったら、おそらく違う人生になっていたはずです。

「チャレンジしたら、上に行けるんじゃないか」

05
SECTION 05

政策と、現場の距離。

Q新卒で経済産業省に入られてから、どのようなお仕事をなさったのでしょうか?

2021年に入省して、1年目は製造業への支援ですね。

あとは、経産省が催すイベントの運営、補助金の広報活動などにも参画しました。

会社のサイトに掲載されている経歴では、この時期の担当は事業再構築補助金と持続化補助金の運営、それにDX推進プロジェクトとされています。中小企業のDX支援、製造業の活性化、補助金の執行。国が中小企業に対して打つ手の、中枢にあたる領域です。

Qその中で、感じられたことがあったのでしょうか?

仕事を続ける中で、限界を感じるようになりました。

実際に営業をしたことも、受注をしたこともない人間が、政策をつくっている。

政策と、現場との乖離を、意識するようになりました。

会社設立を発表したときのリリースには、この感覚が、より直接的な言葉で残っています。

「官僚時代、私は日本のために働いていると信じていました。しかし、私が本当に向き合うべきは…顔の見える一人ひとりの経営者であり、現場で働く従業員の皆さんなのだと」

政策として「DXを進めよう」と言うことと、中小企業の現場でDXが定着すること。この二つのあいだには、大きな距離がある。その距離を、政策をつくる側から見てしまった人が、いまは現場の側に立って、業務の棚卸しから始めている。

SECTION 02で語られた「まず、いまの業務をどうやっているのかを細かく分解します」という進め方は、この時期の実感から出てきたものです。

吹上 由樹
この人たちと、このフィールドで戦ったら、勝ちようがない。
06
SECTION 06

勝てない、と思った。

ここが、吹上さんの最大の転機になります。

Qこれまでで最も大きな転機は、何だったのでしょうか?

入省してからの話になりますが、周りが優秀な方ばかりだったんです。

1を聞いたら、10以上をアウトプットしてくる。

大手企業の上層部と、バチバチにやりとりしている。そういう世界を知りました。

上司も、めちゃくちゃ優秀で、頭の回転が早いんです。

Qそこで、どう思われたのでしょうか?

「勝てない」と思いました。

この人たちと、このフィールドで戦ったら、勝ちようがない。

Qそれまでは、どうだったのでしょうか?

勝とうと思っても、勝てない。それまで味わったことのない感覚でした。

これまでは、努力で押し切れていたんです。

でも、努力では覆せない壁がある、と感じました。

Qそこから、起業に向かわれたのでしょうか?

この人たちを超えるためには何をしたらいいかな、と考えたときに、「背水の陣」というと大げさですが、リスクを背負って起業する、ということを選びました。

「勝てない」という結論から、「だから、この場所を出る」という行動までの距離が、とても短い。

順を追うと、こうなります。2021年4月に入省。2023年7月に退職。同年9月4日に、株式会社Lean Stackを設立。入省前に考えていた「2〜3年で起業」という時間軸が、ほぼそのまま実行されています。

ここで注意しておきたいのは、吹上さんが「霞が関に失望した」とは一言も言っていないことです。むしろ逆で、周りが優秀すぎたから出た、と言っています。負けを認めた、という話ではなく、勝てる場所を自分で選び直した、という話です。

「努力では覆せない壁がある、と感じました」

07
SECTION 07

意思決定を、正解にしていく。

Qその経験は、いまの経営にどう影響しているのでしょうか?

自分の選択を、いかようにも成果にできる。そう思っています。

こうなる、と心から信じている。

Q人生も経営も、ということでしょうか?

意思決定の連続だと思っています。

今までで一番大きなインパクトがあったのは、経産省を辞めたことです。

「辞めていなかった自分は、どうなっていただろうな」と思うことは、今でもあります。

Q迷いが、いまも残っているのですね?

それでも最終的には、メンバーと話し合って、前に進めていきます。

短期的に見たら失敗かもしれない。でも、長期的に見て、これをいかに正解にしていくか。

Qお客様に対しても、同じでしょうか?

ご迷惑をおかけしてしまったときも、短期的には失敗かもしれません。

でも、長期的な関係を考えたらどうしたらいいか、を考える。

最終的には正解にできるように、行動で示していこう、と。

「正しい選択をする」ではなく、「選んだものを正解にする」。

言葉にすると当たり前に聞こえますが、この二つはまったく違う態度です。前者は、決める前に答えがあると考える。後者は、決めたあとの行動が答えをつくると考える。「辞めていなかった自分」を今でも思うと率直に言う人が、それでも前に進める理由が、ここにあります。

「短期的には失敗でも、長期的に、いかに正解にしていくか」

08
SECTION 08

撤退を、告げる。

いちばん苦しかったことを伺いました。

Qこれまでで一番苦しかったことは、何でしょうか?

事業の撤退を判断するときです。

Q数字の問題ではないのでしょうか?

それによって、仲間が役割を失ってしまうんです。

別の事業に行ってもらう、ということを宣告するのが、きついです。

その事業に特化して入ってもらった人がいたりしたら、余計にきつい。

その方が事業にかけてくださっていた時間が、失われていってしまうことが。

創業からの歩みを見ると、この会社は事業の形を一度、大きく変えています。会社のサイトの代表者紹介にはこうあります。

「起業してからは20社以上のSNS運用代行事業に携わり、集客から販売の範囲で各企業の売上拡大に貢献。その後、経産省時代の知見をベースに、AI/DX事業を立ち上げ」

いまの事業に至るまでに、選ばなかった道があったということです。事業を畳む判断は、経営の数字の話として語られがちですが、吹上さんが挙げたのは、数字ではなく人でした。

Qそこから得た学びは、何かおありでしょうか?

交わるものは、交わる、と思っています。

Qといいますと?

離れて、数か月後に、また一緒になる、ということもあります。

『ONE PIECE』のシャボンディ諸島で、二年後に会おう、という話がありますよね。あれと同じで、いったん別れて、また合流する、ということも考えられる。

最終的には、正解にしていける。行動ありき、ではありますが。

ここでも「正解にしていける」という言葉が出てきます。SECTION 07の意思決定の話と、まったく同じ構造です。別れも撤退も、その時点では失敗に見える。ただ、そこで終わりにするかどうかは、あとの行動が決める。

「交わるものは、交わる」

吹上 由樹
企業が元気になると、日本が元気になると考えています。
09
SECTION 09

AXが導く、アナログ価値の最大化。

Qこれから実現していきたいことは、何でしょうか?

AI化そのものが目的ではありません。

テクノロジーによって、企業に「余白」を生み出すこと。

DXで余った時間は、お客様との対話や、新しいサービスの開発といった、より付加価値の高い仕事に使っていただきたいと思っています。

Qヨハクルについては、どのような絵を描いていらっしゃるのでしょうか?

「事務所専用AIを、社労士業界のスタンダードにする」。そこは、かなりはっきり持っています。

QDXは、人手不足対策やコスト削減の手段ということでしょうか?

いえ、それだけではないと思っています。

新しいお客様を増やしたり、新しい事業に挑戦したりするための、"攻めの経営手段"だと位置づけています。

Q最終的には、どんな状態を目指していらっしゃいますか?

AIによって、中小企業からムダな作業を減らして、経営者や専門家が「本当に人にしかできない仕事」に集中できる状態を、当たり前にすること。

それができると、企業が元気になります。

企業が元気になると、日本が元気になると考えています。

会社が掲げる「AX」という言葉について、コーポレートサイトには、こう書かれています。

「当社の掲げる『AX(AI Transformation)』とは、AIが人間の仕事を奪うことではありません。AIが担うべき論理的・定型的な業務を極限まで自動化することで、人間にしかできない創造性、共感、意思決定といった『アナログ価値』を最大化することを意味します」

AIの会社が、アナログの価値を掲げている。矛盾しているようで、していません。単純作業をAIに渡すのは、人が人にしかできない仕事に戻るためだ、という一本の線で通っています。

もうひとつ、この会社の考え方が出ているのが、事業のつくり方です。サイトにはこうあります。

「まず、当社自身が実験場となり、最新のAI技術やSaaSを徹底的に活用し、失敗と成功を繰り返します。そこで得られた『生きた知見(実践知)』だけを、顧客企業の課題に合わせてカスタマイズし、提供します」

理論上の正解ではなく、実戦で磨いたものだけを出す。経産省で政策と現場の距離を見た人の会社が、自社を実験場だと言っているのは、筋が通っています。

目標も公表されています。2027年度末までに、AI導入・システム開発の提供社数を累計300社。クライアント企業のDX内製化の成功率100%。社内の定型業務の自動化率80%以上。

「内製化」がゴールに置かれているところが、この会社らしいところです。支援を続けてもらうのではなく、お客様が自分で回せるようになることを目標にしている。契約が切れることを織り込んだ設計です。

「企業が元気になると、日本が元気になる」

10
SECTION 10

先生を、見つけたもん勝ち。

最後に、これから社会に出る人へのメッセージを伺いました。

Qこれから社会に出る若い方に、最も伝えたいことは何でしょうか?

前提として、自分自身、「起業だ、起業だ」という人間ではありませんでした。

いまは、インターンに行くのが当たり前という概念があって、焦っている学生さんが多い気がしています。

Q焦らなくてもいい、ということでしょうか?

理想を言うと、先生を見つけたもん勝ちだと思っています。経営者や、社長ですね。

自分がなかなか出会えなかった、というより、出会おうとも思っていなかった人たちです。

いろいろな繋がりのある人と仲良くなっていれば、公務員以外の道も切り拓けていたのかな、と思っています。

Q具体的には、どうすればよいのでしょうか?

対面で、めちゃくちゃ会いまくるのが大事だと思います。

あとは、早いうちに人を見る目を養っておいたほうがいいです。

QAIの事業をなさっていて、対面の価値はどう見えていますか?

AIの事業をやっていて思うのですが、対面・リアルでのコミュニケーションの価値が、上がっています。

この点については、noteにも書いています。

「AIが普及すればするほど、リアルとか、アナログの価値が上がっていく」

その根拠として挙げているのが、オフラインの交流会やコミュニティ、ビジネスマッチングのサービスが相当増えている、という観察です。AIで効率化を進める会社の代表が、人と会うことの価値が上がると言っている。ここでも、AIとアナログは対立していません。

この考え方は、会社の活動にも表れています。Lean Stackは2025年11月8日に、キャリア教育支援プラットフォームへの協賛を発表しました。サイトの教育支援のページには、「すべての子どもたちが、平等に学び、成長できる環境を創り出していきます」とあります。

出会える人の数が、その人の進路の幅を決めてしまう。自分がそうだったからこそ、その入口を増やす側に回っている、ということかもしれません。

Q最後に、若い方へ一言いただけますか?

いろいろな考え方、思想に触れてほしいです。

時間とお金を、こういうところに投じていければ、明るい未来が待っていると思います。

それができるのが、羨ましいです。

「羨ましい」という言葉で、話は終わりました。

EDITOR'S NOTE / 編集後記

大分県庁と経済産業省の両方に合格した二十二歳が、「こんなもんか」と思った。霞が関で「勝てない」と思った。この二つの感情が、いまの会社の設計図になっています。

前者があったから、決まっていた道の外に目が向いた。後者があったから、自分が勝てる場所を選び直した。そして、どちらの場面でも、吹上さんが最後に信じているのは同じことです。選んだあとの行動が、答えをつくる。

いま売っているのは、AIではなく、余白です。給与計算が2週間から2日になったとき、事務所に残るのは12日分の時間。その時間を何に使うかは、AIには決められません。決めるのは、経営者です。

自分が二十二歳のときに「出会おうとも思っていなかった」人たち。いま、吹上さんは、その側に立っています。

吹上 由樹株式会社Lean Stack 代表取締役

株式会社Lean Stack 代表取締役。2021年4月、新卒で経済産業省に入省。中小企業のDX支援、製造業の活性化、事業再構築補助金・持続化補助金をはじめとする補助金の運営・執行、DX推進プロジェクトなどに従事する。2023年7月に退職し、同年9月4日に株式会社Lean Stackを設立、代表取締役に就任。SNS運用代行事業で20社以上の集客・販売を支援したのち、経済産業省時代の知見をもとにAI/DX事業を立ち上げる。現在はAI導入・活用コンサルティング、企業向けAI活用研修、カスタマイズシステム開発、ホームページ制作・運用、SES事業を展開。2025年12月、社労士事務所に特化したAI・DX支援サービス「ヨハクル」をリリース。社会福祉、人材派遣、建設、医療などの領域でもAI/DX支援を手がける。「テクノロジーで全ての企業の可能性を引き出すこと」をモットーに活動している。

株式会社Lean Stack

設立:2023年9月4日

代表取締役:吹上 由樹

従業員数:10名(業務委託を含む)

大阪本社:〒540-0025 大阪府大阪市中央区徳井町2丁目2-13 ビジネスゾーン内本町3F

東京オフィス:〒104-0061 東京都中央区銀座4-10-14 ACN銀座4ビルディング9-11F

事業内容:AI導入・活用コンサルティング/社労士事務所向けDX支援サービス「ヨハクル」/カスタマイズシステム開発/ホームページ制作・運用/SES事業

ビジョン:AXが導く、「アナログ価値」の最大化

認証・認定:ISO/IEC 27001:2022(登録番号 SCC/INT/2602LT/24930)/DX認定事業者(経済産業省、2026年3月2日認定)/SECURITY ACTION 二つ星/パートナーシップ構築宣言

所属団体:東京商工会議所、大阪商工会議所、大阪西区倫理法人会、BNI Empowerチャプター

コーポレートサイト:leanstack-buzz.com

ヨハクル(社労士事務所向けDX支援):yohakuru.com

note:吹上由樹@株式会社Lean Stack

YouTube:DXできるくん ~ 株式会社Lean Stack

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