生成AIが、あらゆる業務の前提を書き換えようとしています。
その最前線にいるはずのBPO業界について、パーソルビジネスプロセスデザインで事業の中核を担う大友潤さんは、こう切り出しました。
流行り言葉としてのAIには、距離を置く。けれど、AIをBPOにどう組み込むかは、この会社の未来そのものだと言います。
1997年、平均年齢20代だったインテリジェンスに入社。人材派遣、給与計算BPO会社への出資、頓挫した基幹システムの立て直し、そしてスキマバイトアプリ「シェアフル」の立ち上げ。30年弱のキャリアで、大友さんは何度も持ち場を変えてきました。
いま所属するパーソルビジネスプロセスデザインは、従業員18,311名(2026年2月1日時点)。パーソルホールディングスを親会社とする、国内最大級のBPO会社です。会社そのものも変化の途中にあります。2024年9月1日にパーソルプロセス&テクノロジーから商号を変え、翌10月1日にはパーソルテンプスタッフのBPO事業とパーソルワークスデザインを統合して、いまの姿になりました。
その一貫した軸を尋ねると、返ってきたのは、経営らしい言葉ではありませんでした。
「飽き性なんです。安定が、つまらない」
放っておけば、組織は安定成長に落ち着く。だから敢えて、不安定にする。同じポジションに、一定期間以上はいない。マンネリ化した組織は、壊していく。
変化を自らつくり続けてきた経営者の原点と、次の10年の構想を、本人の言葉でたどります。
「生成AIに踊らされて、『AIで、コスト削減』と言っている」
10年で、人がいなくなる世界は想定していない
Qまず、現在どのような事業を展開されているのでしょうか?
ホワイトカラー領域の業務を、業務委託でお預かりするBPOサービスです。
会社名のとおり、ビジネスプロセスをデザインする会社です。お預かりした業務を、お客様が自社でやるよりも効率化してお返しする。業務のリノベーション、BPRですね。
私は主にコーポレート(経営戦略・IT・人事・ガバナンス)と新規事業開発を担当しています。
会社が掲げる事業領域は、BPO、ヘルプデスク・コンタクトセンター、セールスマーケティング、業務プロセスコンサルティング、HRソリューション、ヘルスケアソリューション、プロダクト。設立は1977年9月で、社歴の長い会社でもあります。
Qいま、業界全体の空気をどう見ていますか?
正直に言うと、みんな生成AIに踊らされているところがあります。「それAIで」「AIでコスト削減」と。一方で、既存事業は労働集約型モデルのため、AIを活用すればするほど生産性があがり人が必要とされなくなりその分売上が下がる、という不安・ジレンマから、変革スピードを上げ切れていない状況です。
QBPOに、生成AIをどう組み込むのでしょうか?
この10年というスパンで見ると、人が完全にいなくなる世界までは想定していません。
プロセス単位で見れば、完全に自動化できるものもあります。人とAIが半々になるプロセスもある。
大事なのは、そこをいかに見定めて、プロセスをモジュール化するかです。お客様のAs-Isに、ベストプラクティスとなるAIモジュールを入れていく。そうすると業務が改善され、そこで出た余剰利益を、お客様も私たちも享受できます。
得意領域を定めて、他社よりもいち早くモジュール化して実践していく。そこが勝負です。
Q領域によって、提供する価値は変わるのでしょうか?
変わります。
フロント側――受発注、営業事務、顧客対応のオペレーション。ここはコスト削減ではありません。生産性を上げ、売上を上げ、収益性を高めるための業務です。
一方、コーポレートサービスは、徹底的なコスト削減です。同じBPOという看板でも、狙うところがまったく違います。
Q今の仕事への着任は、どういう経緯だったのでしょうか?
3年前に、今のCEOからアサインされました。
過去の中期経営計画では、グループの中核事業は人材派遣と人材紹介でした。それぞれEBITDAで300億ずつ、ほかは100億ほど。
その次の10年、20年の中核事業をつくるために、これまで点在していたBPO事業をSBUという一つのエンティティにする。そこで戦略を描いて、整えろ、と。
パーソルグループは、国内外に約150社を擁するグループです。グループビジョンに「はたらいて、笑おう。」を掲げ、2026年5月には中期経営計画FY2028を公表しています。SBU(Strategic Business Unit)という括りで事業を再編し、その一つとしてBPOが立ち上がりました。大友さんが呼ばれたのは、その中核の設計です。
私自身はシェアフルを立ち上げてようやっと軌道に乗るところだったので、10年100億の達成までやり切りたかったのですが、異動することになりました。
この10年で、人が完全にいなくなる世界までは、想定していません。
人より3倍働ける場所を、探していた
Q学生時代は、どんな学生でしたか?
大学に入って、1年間はのんべんだらりでした。
とにかく日常は遊びたかったので、平日にアルバイトはしない。その代わり夏休みと冬休みに、昼・夜・昼と詰めて働いて、平時は遊ぶ。そういう組み立てでした。
Q資格の勉強もされていたと伺いました。何を目指していたのでしょうか?
3年から、税理士の資格取得を目指して勉強を始めました。
ただ、財務諸表論の論文が難しすぎて、やめてしまいました。資格は、取れていません。
Q就職活動では、何を軸にしていましたか?
人よりも3倍働いて、人よりも成長して、所得を増やして、より良い生活をする。それだけでした。
就活をしていたのは96年です。会社員に1人1台パソコンが行き渡っていない時代でした。
人よりも激しく働ける環境はどこだろうと考えて、スタートアップ、コンサル、外資系金融のバックオフィスだろう、と。大企業はほぼ面接していません。
Q最終的に、どこが残ったのでしょうか?
インテリジェンス、現エン・ジャパン、プライスウォーターハウスの3社です。
インテリジェンスに決めたのは、平均年齢が20代で、面白そうだったからです。
人よりも3倍働いて、人よりも成長して、所得を増やす。それだけでした。
会社の「親」が、何度も変わった
Q入社後は、どんなキャリアを歩まれたのでしょうか?
97年に入社した時点で、社内にアウトソーシング事業が立ち上がっていました。それを2〜3年やりました。
当時のメインは新卒採用のコンサルティングサービスで、人材派遣を始めて3〜4年というタイミングの会社でした。
Qその後、出資先に出られたと伺いました。どのような数年だったのでしょうか?
給与計算のBPO会社に投資をして、私は営業部隊として行きました。
数年やりましたが、投資をしすぎて赤字経営になり、上場して得た資金も使ってしまって、最終的に売却することになりました。
そこから、人材派遣事業に異動となり、拠点展開のためのM&Aを担当しました。
Q振り返ると、紆余曲折の多いキャリアだったのでしょうか?
会社の親が、何度も変わりました。
複数の事業をやり、新規事業も何度も立ち上げ、その後テンプスタッフの中核に入って――という変遷です。
ただ、30年弱のキャリアの中で、事業を直接運営して執行したのは、人材派遣とBPOです。この2つが、私の事業経験の土台になっています。
会社の親が、何度も変わりました。

正しい計画と、正しい遂行
Q今の自分をつくった、最も大きな転機は何でしょうか?
30年の中で、特徴的なボスと働いてこられたことです。自分のベースには、これがあります。
一番大きな転機は、2010年前後、当時グループCIOだった小澤さんとの出会いです。
Qその方から、何を学ばれたのでしょうか?
物事を体系的に、論理的に、構造的に捉えること。そして、要件定義、企画力、プロジェクトマネジメント力の必要さと実践を積めたこと。
上流で要件を決めて、物事を完遂させる。ここをいかに緻密にやるかで、成功するか失敗するかが決まります。ITプロジェクトは、これが如実に出る仕事でした。
Q「完遂させる」ことが、重要ということですか?
はい。完成しないと、意味がないんです。
ゴールの定義は、立てたものから変わっても良い。ただ、事業成長においては成果が全て、と考えています。成果を生み出すためのプロセスはもちろん大事なのですが、プロセスはあくまでも手段。
正しい計画と、正しい遂行。ここをいかに緻密にやり、成果を出すか、です。
Qそれまでのご自身とは、何が違ったのでしょうか?
細かさ自体は、もともと持っていました。ただ、感覚的だったんです。
それを構造化して企画する。そして実行の段階では、予定と実際は必ず変わるので、プロジェクトマネジメントとしてステークホルダーを押さえ、品質・コスト・納期を押さえる。
変動要素があっても、実行までたどり着かなければ、何もないのと一緒ですから。
正しい計画と、正しい遂行。完成しないと、意味がない。
たった一人で、本丸に乗り込む
Q2013年に、テンプグループに入られたそうですね。それまでの経験は活きましたか?
はい。その前にインテリジェンスグループでITの責任者をやっていたことが、血肉になっていました。
Qそこで、大きな仕事が待っていたのでしょうか?
グループ入りして2年後、2015年の4月です。テンプスタッフという本丸の、ITの責任者として入りました。基幹システムの立て直し――一からのリスタートの責任者です。3年で50億ほどをかけたプロジェクトでした。
それまで2年間動いていたプロジェクトが頓挫していて、私は一人でテンプスタッフに乗り込んで、立て直すことになりました。
Q買われた側から、本体へ。難しさはありませんでしたか?
信頼って、実績が全てだったりするんです。
それまでの十数年でインテリジェンスグループでは信頼貯金は溜まっていましたが、テンプの中では認知も実績もない。買われた側の人間として、本体のキーマンとの信頼関係と事業インパクトへの貢献度合いの高い実績をつくれたことが、大きかったと思います。
仕事って、人と人との関係性でしかないですから。
Qそこから、シェアフルへ向かわれたのでしょうか?
基幹システムのプロジェクトは、3年で引き継ぐと決めていました。無事リリースして、そこから準備して立ち上げたのがシェアフルです。
企画構想が2017年の9月ごろ。リリースが2019年の1月でした。
シェアフルは、パーソルホールディングスとランサーズの合弁会社として設立されました。業務提携の発表が2018年11月13日、会社設立が2019年1月。初代の代表取締役社長を務めたのが、大友さんです。
そのアプリは、いま登録者が1,300万人を超えています(2026年7月時点、App StoreとGoogle Playのダウンロード数合計)。2025年6月に1,000万人を突破し、さらに伸び続けています。「あれをやり切りたかった」と本人が言う事業は、手を離れたあとに国内有数の規模になりました。
信頼は、実績が全て。仕事は、人と人との関係性でしかない。

敢えて、不安定にする
Q役割やポジションが、数年ごとに変わっています。一貫した軸はありますか?
シェアフルをやっている時には「世の中の負の解消」でした。
ただ、それをひっくるめて、社会人人生30年の軸を問われると――飽き性なんです。常に新しいことがしたい。安定が、つまらない。
だから組織の中でも、常に変化を自分でどうつくるかを考えています。
Q変化そのものが、目的ということでしょうか?
事業戦略で言えば、非連続の成長とまではいかないにせよ、オーガニックな安定成長は誰でもできる、とします。だとすると、変化を起こすことが目的というか、変化を起こすことで価値を再定義できる。
そして、変化を起こすと、組織が再活性するんです。
放っておくと、安定成長になります。だから敢えて、不安定になるために変化を起こす。
そのために、自分は同一ポジションに一定期間いません。マンネリ化した組織は、壊していきます。
Q人材派遣という事業も、その対象なのでしょうか?
「世の中の負の解消」も、既存の商慣習に変化を起こして、価値を再定義するということでした。
それと一緒で、人材紹介があり、その先に人材派遣も法律が施行されて40年くらい経ちます。制度疲労を起こし始めているのは、間違いありません。
労働者派遣法の施行は1986年7月です。2026年で、ちょうど40年になります。
それが分かっているのに、惰性の延長で、効率化はやるけれど、抜本改革は歯を食いしばってもなかなかできない。
Qそれが今、突きつけられている課題なのでしょうか?
誰かが変化をもたらすんだったら、自分たちが変化をもたらさないと、いつの間にか茹でガエルで死んでしまいます。
ここが今、パーソルに突きつけられていることです。
生成AIという外圧がきっかけではありますし、そういうテーマで次のグループの10年という会話をしています。自ら、変化を起こしに行くつもりです。
グループ全体も、同じ方向を向いています。2025年4月1日にはグループAI・DX本部を設立。「テクノロジーの力で顧客体験/従業員体験/事業を変革する」を掲げ、国内外約150社を対象に、主要サービスへのAI適用、日程調整やヒアリング・書類作成といった共通業務のAI化、新サービスとビジネスモデルの構築に取り組んでいます。2026年7月のIR DAY 2026では、AIを軸とする新たなテクノロジー戦略が公表されました。
放っておくと、安定成長になる。だから敢えて、不安定にする。
「新卒で入ってからじゃないとできない」は、嘘
Qこれから社会に出る若者に、最も伝えたいことは何ですか?
新卒で働き始めることを「同一の入り口」だと思わない方が良い、ということです。
高校や大学の時代から自分で仕事を始める人は、これから増えていきます。社会に出る出方を、もっと緩やかにしたら良いと思うんです。
世の中との接点を持って、ちょっとしたサービスを展開するのでも良い。誰かのサービスの中で相乗りして接点を持つのでも良い。
「新卒で入ってからじゃないとできない」というのは、嘘です。いつでも、すぐできます。
Qなぜ、今なのでしょうか?
自己成長をブーストしてくれるAIエージェントが、日に日に進化しているからです。
自分が知らないことを、自分たちよりも死ぬほど詳しいAIエージェントが答えてくれる。自己成長のスピードが、激烈に早くなります。
知らないを、言い訳にしないでくれ、と。
「社会に出るタイミングを、今にした方が良い」。環境が、それを許し始めているからです。
Q就職活動というマイルストーンは、どう捉えれば良いですか?
就職活動という言い方をしてしまうと、大学4年を卒業して、社会人1年目になる、というマイルストーンは確かにあります。
ただ、それは単なるマイルストーンです。そこまで待たない方が良いのではないか、と思います。
Qやりたいことが決まっていない人は、どうすれば良いでしょうか?
学生時代に、世に出る前にやりたいことがある人は、当然そこに向き合ってください。
やりたいことが分かっていないような人は、世の中に出る手段が多様化しているので、世の中に出る経験を人よりも早くしてほしい。
サービスや価値を享受するだけではなく、「提供する」という参画の仕方ができます。アルバイトを超えた環境で。
自分の知らない世界で気づける発見が、死ぬほどあるはずだから。
Q大友さんご自身が、仕事を面白いと感じる根源は何でしょうか?
根源にあることは、”問題解決”ですね。
息子が指定校推薦のために壁打ちをしていた時に、話していたことなのですが――課題を見つけて、解決する。すると、単にその課題が解消されるだけではなく、プロセスも変わる。アウトプットを出すことで、関与する人にもたらす便益が生まれる。
大きな意味ではプロセスは変わらないのですが、変化をもたらした先に、世の中への影響、ステークホルダーへの影響がある。
そこで、自らが主体者である、ということの体感値。ここに高揚感を覚えるんです。
仕事というよりかは、ライフワークに近い感覚です。物事を解決するのが、めちゃくちゃ面白いから。それが、根源にあります。
「新卒で入ってからじゃないとできない」というのは、嘘です。
EDITOR'S NOTE / 編集後記
「飽き性なんです」。
30年弱のキャリアの軸を問われた大友さんの答えは、それでした。
人よりも3倍働ける場所を探して、平均年齢20代の会社に入った。アウトソーシング、人材派遣、出資先への出向、売却、そして派遣へ戻る。会社の親は、何度も変わりました。
2年間頓挫していた基幹システムのプロジェクトに、たった一人で乗り込んだ。3年で引き継ぐと決めて、決めたとおりに引き継いだ。そして、シェアフルを立ち上げた。
その歩みを貫いているのは、野心よりも、居心地の悪さを自分でつくる習性のようなものに見えます。
放っておくと、安定成長になる。
だから敢えて、不安定にする。同じポジションに、一定期間はいない。マンネリ化した組織は、壊していく。
法律の施行から40年が経った人材派遣について、「制度疲労を起こし始めているのは間違いない」と言い切れるのも、同じ性質の言葉なのだと思います。分かっているのに、惰性の延長で抜本改革ができない。誰かが変化をもたらすなら、自分たちがもたらさないと、茹でガエルで死んでしまう――。
正しい計画と、正しい遂行。完成しないと、意味がない。
変化を煽るだけの人ではないことは、この一言に表れています。構造で捉え、緻密に企画し、実行までたどり着かせる。だからこそ、壊す側に立てるのでしょう。
そして、次の世代に向けた言葉も、やはり同じでした。
「新卒で入ってからじゃないとできない」というのは、嘘です。
入り口は一つではない。待たなくていい。知らないを、言い訳にしないでくれ。
安定を疑い続けてきた人だけが言える言葉だと感じました。
1996年に就職活動を行い、1997年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。当時立ち上がっていたアウトソーシング事業、人材派遣事業に携わる。
給与計算BPO会社への出資に伴い、営業部隊として同社へ。その後、インテリジェンスグループのIT責任者を務め、2013年にテンプグループへ。2015年4月、パーソルテンプスタッフのIT責任者として、頓挫していた基幹システム再構築プロジェクトの立て直しを担う(3年・約50億円規模)。
2017年9月ごろからスキマバイトアプリ「シェアフル」の企画構想に着手。パーソルホールディングスとランサーズの合弁会社シェアフル株式会社を2019年1月に設立し、初代の代表取締役社長を務めた。同アプリの登録者数は2026年7月時点で1,300万人を超える。
2023年4月よりパーソルビジネスプロセスデザインでBPO事業を担当。現在は取締役執行役員として、BPO事業の中核、グループ会社3〜4社の管掌、コーポレート・人事・ガバナンス、新規事業開発を統括。生成AIを前提としたBPOの再設計と、次の10年の中核事業づくりに取り組む。
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
1977年9月設立。資本金3億1,000万円。本社事務所は東京都港区芝浦(グランパークタワー)。代表取締役社長・市村和幸。パーソルホールディングス株式会社の子会社で、BPO、ヘルプデスク・コンタクトセンター、セールスマーケティング、業務プロセスコンサルティング、HRソリューション、ヘルスケアソリューション、プロダクトを手がける。2024年9月1日にパーソルプロセス&テクノロジー株式会社から商号変更し、同年10月1日にパーソルテンプスタッフのBPO事業とパーソルワークスデザイン株式会社を統合。従業員18,311名(2026年2月1日時点・全雇用形態)。
コーポレートサイト:https://www.persol-bd.co.jp/
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