「もっと社長と話したかった」——秘書歴20年・石井智美が、その言葉から学んだ経営 – ZEROWORKS(ゼロワークス)
EXECUTIVE INTERVIEW
No.015
EXECUTIVE INTERVIEW

上場企業で20年、社長の隣にいた

COMPANY
アンドヴィオラ株式会社
NAME
石井 智美
CATEGORY
人材・採用
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74 Views#秘書歴20年#バックオフィス支援#女性のキャリア

アンドヴィオラ株式会社代表取締役社長、石井智美氏。

上場企業で約20年、社長秘書として経営トップの隣で働き続けてきた。スケジュールの調整から、意思決定の準備、そして誰にも言えない悩みの受け止めまで。経営者という存在を、誰よりも近くで見てきた人だ。

そんな石井氏が、2022年10月、自ら事業を立ち上げた。

きっかけは、華やかな成功体験ではない。30代で親を亡くし、介護と育児と仕事を同時に抱えた。「周りより15年くらい先の人生を体験している」——その実感が、「この経験を下の世代に伝えなきゃいけないんじゃないか」という使命に変わった。

しかし、経営は甘くなかった。受注もないのに、人だけは揃っていた。任せることがマネジメントだと思っていた。そして、辞めていく社員から言われた一言に、頭を殴られる。

20年間、経営者を支えるプロだった石井氏が、経営者になって初めて知ったこととは何か。本人の言葉で、その歩みをたどっていく。

「もっと社長と話したかった」

01
SECTION 01

「導入初期、必ず自分が入る」バックオフィス支援

Qまず、現在どのような事業を展開されているか教えてください。

中小企業の経営者向けの、バックオフィス支援です。スケジュール管理、資料作成、経費精算、総務や採用まわりの事務など、経営者の頭の中に散らばっている「未整理の業務」をお預かりして、外部で回る仕組みに変えていきます。今は社員を軸に、業務委託やパートのメンバーとチームを組んでやっています。

以前は「オンライン秘書」という言葉を使っていたのですが、今はやめているんです。私たちが提供しているのは「秘書の代行」ではないので。

Q他社のサービスと、何が違うのでしょうか。

導入初期は、必ず私自身がお客様の中に入ることです。

お客様の課題を引き出して、整理して、定型化できる形にする。そこまで私が自分でやり切ってから、初めてメンバーに渡します。頼まれた作業をこなすのではなくて、「何を頼めばいいのか分からない」という状態から一緒に解きほぐしていくんです。

秘書というのは、ボスが「こういうことをやりたい」と言ったときに、その準備をすべて整える仕事です。指示を待つのではなく、先回りして動く。その型を20年やってきたことが、そのまま今の仕事に生きていると思います。

Q今後、実現したいことは何ですか。

今、キャリアコンサルタントの国家資格に挑戦しています。養成講座がこのあいだ終わったので、これから試験を受ける予定です。

目指しているのは、バックオフィス支援の先にある「女性が活躍できる社会」です。仕事のことだけではなくて、女性のキャリアや人生全体の相談に乗っていく。そういう事業もやっていきたいと思っています。

石井 智美
「支える立場」が定位置でした——先頭に立つのではなく、組織がうまく回るように動く。学生時代から変わらない立ち方だった。
02
SECTION 02

「支える側」だった自分が、経営者側へ

Qどんな学生時代を過ごされましたか。

副ゼミ長のような、「支える立場」が定位置でした。先頭に立つのではなくて、組織がうまく回るように動く。振り返れば、その姿はのちの秘書というキャリアにまっすぐつながっていますね。

自分自身、起業しようと思っていたわけではまったくないんです。

Qそこから、なぜ経営者側へ?

新卒で製紙会社に入って経営トップの秘書になり、結婚・出産を経て転職した先でも社長秘書を務めました。一貫して、経営者の隣で働いてきたキャリアです。

でも、秘書をやっている中で、あるとき気づいてしまったんです。経営者側にいかないと、本当のところは分からない、と。支える側として20年やってきたからこそ、見えない領域があることが分かった。

そこに、人生のもう一つの経験が重なります。私は30代で親を亡くしていて、介護と育児と仕事を同時に抱えた時期もありました。多くの人が40代、50代で直面することを、15年ほど早く経験しているんです。

周りより15年くらい先の人生を体験している。だったらこの経験を、下の世代に伝えなきゃいけないんじゃないかな——その使命感が、背中を押しました。

ちょうどそのとき、勤務先に社内ベンチャー制度の話があったので、手を挙げました。社長秘書をやりながらの社内起業です。2022年10月のことでした。

「経営者側にいかないと、本当のところは分からない」

石井 智美
「オンラインだったら、続けられるのにな」——介護と育児を自分で経験して、ずっと考えていた。
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SECTION 03

「オンラインだったら、続けられるのにな」

Q最も大きな転機は何でしたか。

やはり、30代で親を亡くしたことです。人生の重いところを人より先に経験して、それが起業の使命につながっていきました。

Qその経験は、事業のかたちにどう影響していますか。

女性は、家族の転勤、介護、育児といったライフステージの変化で、仕事を辞めざるを得なくなることが多いんです。本人の能力とも意欲とも関係なく、環境の変化がキャリアを断ち切ってしまう。

介護と育児を自分で経験して、ずっと考えていました。オンラインだったら、続けられるのにな、と。

場所に縛られない働き方があれば、スキルのある人が辞めなくて済む。同時に、専属の秘書を雇えない中小企業の経営者も、プロの支援を受けられるようになる。働き続けたい人と、支えを必要とする経営者。その両方をオンラインでつなげないか、と考えていたところに、ちょうど社内ベンチャーの募集があった。それで応募することにしたんです。

その後、コロナ禍でオンラインでの業務支援の可能性が一気に認識されて、事業は独立した会社・アンドヴィオラとして歩み始めました。

30代で親を亡くした経験が、使命になった。介護と育児の経験が、事業のコンセプトになった。秘書として磨いた20年が、サービスの品質になった。私の事業は、人生で経験したことすべてが素材になっているんだと思います。

石井 智美
「受注が十分にないのに、人だけは揃っていた」——人が増えることと会社が成長することは同じではない、と身をもって学んだ。
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SECTION 04

「任せること」と「関与しないこと」は別だった

Qこれまでで一番苦しかったことを教えてください。

正直に言うと、私は経営について何も知らない状態で始めているんです。

社内ベンチャーとして始まったこともあって、受注が十分にないのに、人だけは揃っていました。当時は「人を採用すれば会社は強くなる」と思っていたんです。人が増えることと会社が成長することは同じではない——それを、身をもって学ぶことになりました。

もう一つの誤算は、マネジメントでした。私は、現場責任者に任せることがマネジメントだと思っていたんです。

Qなぜ、そう思われていたのでしょうか。

大手企業に20年いたからです。課長がいて、部長がいて、その上に社長がいる。社長が現場のメンバーと直接話してしまえば、間の管理職を追い越してしまう。だから、あえて距離を取っていました。

その考えが崩れたのは、去っていく社員から、こう言われたときです。

「もっと社長と話したかった」と。

大手の常識は、小さな会社の常識ではなかったんです。数名の組織で社長が距離を取れば、それは「秩序」ではなくて、ただの「不在」になってしまう。

Qそこから、どう変わったのですか。

一人一人と、直接話すようになりました。現場にも入って、メンバーと一緒に業務改善を進めるようになりました。

たどり着いた学びは、「任せることと、関与しないことは、別だな」ということです。仕事は任せていい。でも、人との関係まで任せてはいけない。役割を渡すことと、人から離れることは違うんです。

その結果かどうかは分かりませんが、今期は退職者がまだ一人も出ていません。

経営者の隣に20年いた私でさえ、経営者になってみなければ分からないことがありました。だからこそ今は、お客様である経営者の悩みが心から理解できる。失敗の経験そのものが、伴走者としての深みになっていると思います。

「任せることと、関与しないことは、別だな」

石井 智美
「1回は行ってみる。1回はやってみる」——経営者になってから決めているルール。
05
SECTION 05

「誘われたら、断らない」

Qこれから社会に出る若者に、最も伝えたいことは何ですか。

「こうしなきゃいけない、この道だけ、じゃないよ」ということです。

私自身、最初から起業家を目指していたわけではありません。支える側として20年働いて、人生の転機を経て、経営者になった。道は一本ではないし、いつからでも変えられます。だからこそ、若いうちは可能性を狭めないでほしい。可能性を広げて、チャンスがあればいろんなことにチャレンジしていった方がいいと思います。

「何をやったら良いかわからない」「何が向いてるかわからない」という人は多いと思うんです。でも、考えているだけでは答えは出ません。とりあえず、やってみる。フットワーク軽く、アンテナを立てていくといいと思います。

Q石井さんご自身が実践されていることはありますか。

経営者になってから、自分に決めているルールがあります。「誘われたら、断らない」です。

1回は行ってみる。1回はやってみる。もちろん何でも引き受けるという意味ではありません。でも、最初から『自分には関係ない』と可能性を閉じないようにしています。

一人で悶々と考えていても、良い結果にはならないんです。人と会って話すことで、自分の考えが整理される。話しているうちに、自分でも気づいていなかった自分に出会えることもあります。

最後に決めるのは自分です。でも、決めるまでの過程で人と話すことを、自分から閉ざしてはいけないと思っています。

EDITOR'S NOTE / 編集後記

支える側から、決める側へ。会社員から、経営者へ。秘書から、伴走者へ。

石井氏の人生は、「とりあえずやってみる」の連続だった。

30代で人生の重さを先に経験し、それを使命に変えて起業した石井氏は、これからキャリアコンサルタントとして、働く女性たちの人生にも伴走しようとしている。

「周りより15年先の人生」を歩んできた人の言葉は、これから人生の選択を重ねていく世代にとって、少し先の未来からの手紙のようでもある。

石井 智美アンドヴィオラ株式会社 代表取締役社長

アンドヴィオラ株式会社代表取締役社長。新卒で製紙会社に入社し経営トップの秘書を務めたのち、結婚・出産を経て転職、社長秘書としてのキャリアは約20年に及ぶ。30代で親の介護・看取りと育児、仕事を同時に経験。2022年10月、社内ベンチャー制度を活用して起業し、のちにアンドヴィオラ株式会社として独立。中小企業向けのバックオフィス支援を展開する。現在は国家資格キャリアコンサルタントの取得に挑戦中で、女性のキャリア支援事業の立ち上げを構想している。

HP: https://www.andviola.co.jp/

note: https://note.com/viola_onlineti

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