「啓発・啓蒙だけでは、限界があると思ったんです」
大学在学中から続けた、和食料理店での修行。
新卒で飛び込んだ、外食企業サッポロライオン。
山梨県富士吉田市で立ち上げた、コミュニティカフェ。
一貫して「食と人の現場」を歩いてきた川越一磨さんが立ち上げたのは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品を、ユーザーが「レスキュー」するフードシェアリングサービス——『TABETE』でした。
導入店舗は約3,500。継続率は9割を超えます。
それでも川越さんは、「大きなムーブメントには、まだしきれていない」と語ります。
もったいないと呼びかけるのではなく、社会システムに組み込む。
一過性のブームで終わらせず、一般化させる。
食品ロス削減の「その先」を見据える川越さんに、転機と構想を伺いました。
約3,500店舗、継続率95%。『TABETE』の現在地
Q現在は、どのような事業を行っていますか?
フードシェアリングサービス『TABETE』を運営しています。
現在、約3,500店舗に導入いただいています。
『TABETE』は、閉店間際などに余ってしまった商品を、店舗が出品し、ユーザーがアプリで「レスキュー」できる仕組み。
導入店舗の内訳は、6割がチェーン、4割が個人店です。
継続率は、個人店で90数%、チェーンで95%です。
一度導入した店舗が、ほとんど離脱しない。
その裏側には、独特な組織体制があります。
営業は、大手のみを担当する2名だけなんです。
メインはプロダクト改善で、そこに5名くらいのメンバーがいます。
営業部隊を拡大するのではなく、店舗が使い続けたくなるプロダクトを磨き込む。
9割超の継続率は、その方針の結果でした。
転機は2017年——研修事業から、TABETEへ
大学卒業後、サッポロライオンでの現場経験を経て、富士吉田市でコミュニティカフェを運営。
2015年12月、川越さんは株式会社コークッキングを創業します。
ただし、最初の事業は『TABETE』ではありませんでした。
Q創業当初から、いまの事業だったのでしょうか?
いえ、最初は研修事業をやっていました。
私たちはもともと「価値創造型」——課題がないところにソリューションを作るタイプの会社で、組織内の課題を解決する研修を提供していたんです。
Qそこからなぜ、食品ロスの領域へ?
最も大きな転機は、2017年です。
もともと社会課題の解決に興味があって、その方向に行きたいという想いがありました。
そのなかで、食品ロスの啓発・啓蒙をやりたいと思うようになったんです。

「啓発だけでは限界がある」——社会システムに組み込むという決断
食品ロスの啓発・啓蒙。
しかし川越さんは、すぐにその先の壁に気づきます。
啓発・啓蒙だけでは、限界があると思いました。
だったら、ロス削減が自然に回る仕組みを、社会システムそのものに組み込むしかない。
そのために立ち上げたのが『TABETE』でした。
「もったいない」と呼びかけるのではなく、余った食品が当たり前に売り買いされる仕組みをつくる。
研修事業からの大きな転換でした。
Q当時は、どんな未来を描いていましたか?
大きなムーブメントにしていこう、と思っていました。
ただ正直に言うと、まだ大きなムーブメントにしきれていない感覚があります。
Q3,500店舗まで広がっても、まだ道半ばだと。
社会課題解決と言っている割には、社会課題がまだ残っていますから。
一過性のブームはありました。いまは、それが一般化されていくフェーズだと捉えています。
長期目線で、本当に解決の方向に向かっていくのか——それが、今でも考え続けていることです。
次の壁は、エンプラ開拓——「値引き一辺倒」からの打開
Q食品ロス削減を「一般化」させるために、いま一番の経営課題は何ですか?
エンタープライズの開拓です。
大企業を巻き込まないといけない、と強く思っています。
値引き一辺倒のロス削減が業界に影響を与えているなかで、そこからどう打開するか。
新たなビジネスモデルの創造が必要だと考えています。
Q具体的には、どんな連携が突破口になりそうですか?
例えばPOSシステムとの連動ですね。
お店の業務効率化のような領域との、オープンイノベーション的な連携の話は最近よくしています。
取材では「ぜひ一度会ってみたい」という企業名として、POSレジを手がける東芝テック、エアレジ、スマレジの名前が挙がりました。
店舗のレジ・受発注データと食品ロス削減がつながったとき、次のステージが見えてきます。

10,000店舗と、「余りにくい仕組み」へ
Q今後、実現したいことを教えてください。
まず、いまの約3,500店舗を10,000店舗に持っていきたい。
もう一つは、お店向けに受発注管理など「余りにくい仕組み」を整えていくことです。
中食・小売向けのSaaSとして、開発・開拓を進めていきたいと考えています。
余った食品を「レスキュー」する『TABETE』から、そもそも余らせない仕組みづくりへ。
食品ロス対策の、さらに上流への挑戦です。
廃棄の手前で救うだけでなく、ロスが生まれにくい構造そのものをつくる。
「社会システムに組み込む」という2017年の決断は、いままっすぐに延長線を伸ばしています。
「チャレンジをやめない」——自分の価値を上げ続ける
Qこれから社会に出る若者に、最も伝えたいことは何ですか?
今も昔も変わらず言えるのは、「今の方がチャレンジしやすい環境になっている」ということです。
社内での挑戦でも、起業でもいい。
自分の価値を上げることに貪欲になった方が、人生を楽しく過ごせると思います。
壮大な夢を持つ必要はありません。
自分が楽しいと思える範囲で、自分を磨き上げることに常に力を注いでいったらいい。
その言葉の背景には、危機感もあります。
それができなくなった40代〜50代が、大量にいるんです。
自分の価値を上げずに、レールの上をただただ走ってきただけの人は、会社の中にいても価値を発揮できない。
雇用の流動性は、これからも上がっていきます。
ずっと一つの会社に勤め上げるキャリアプランではなくなる。
年収を上げたいときに上げるためには、自分の価値を上げ続けるしか方法がないんです。
Q最後に、20代に向けて一言お願いします。
チャレンジをしていくことを、やめない。
これが20代では、特に重要だと思います。
EDITOR'S NOTE / 編集後記
取材で最も印象的だったのは、約3,500店舗・継続率95%という実績を語りながら、「まだ大きなムーブメントにしきれていない」と自らに厳しい評価を下す姿勢でした。
啓発ではなく、社会システムへの組み込みを選んだ2017年。
そしていまは、「余った食品を救う」から「そもそも余らせない」へ、課題のさらに上流に踏み込もうとしています。
一過性のブームを、一般化へ。
社会課題の解決を口にする企業は多くても、「課題がまだ残っている」と言い続けられる経営者は多くありません。
食の現場から始まった川越さんの挑戦を、これからも追いかけたい取材でした。
2014年慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学中から和食料理店で修行し、卒業後は株式会社サッポロライオンに入社。退職後、山梨県富士吉田市に移住しコミュニティカフェの立ち上げ・運営に携わる。2015年12月に株式会社コークッキングを創業。
2017年の転機を経て、フードシェアリングサービス『TABETE』を展開。現在約3,500店舗に導入され、継続率は9割を超える。今後は10,000店舗への拡大と、受発注管理など「余りにくい仕組み」(中食・小売向けSaaS)の開発を目指す。
