大学3年生だった飯田さんは、街に立って、通りすがりの人に同じ質問をし続けていました。
「仕事にやりがいを感じていますか?」
「はい」と答えた人は、2割しかいませんでした。
その数字を確かめるように国のレポートを開くと、そこにも近い数字が載っていました。2008年、内閣府の国民生活選好度調査。仕事にやりがいを感じている日本人は、18%。
平日、起きている時間の半分以上を仕事と移動に使っている。それなのに、8割が「やりがいがない」と答える。
「もったいないし、どうにかしないといけない」
ビジネスモデルは、ありませんでした。あったのは、貯金60万円と、その違和感だけです。
2008年1月、東京大学経済学部在学中に株式会社ist——現在の株式会社リーディングマークを創業。
そこから18年。会社は、人の性格や心の状態という「内面」を可視化する技術を軸にしたHRTech企業になりました。主力プロダクト「ミキワメAI」の累計利用企業数は6,000社、累計受検者数は200万人を超えています。
ただ、その18年は、まっすぐな成長曲線ではありませんでした。
最初のプロダクトは大失敗に終わり、離職率が3割を超える年が3年続きました。2020年4月、ようやく「ミキワメ」をリリースした翌日、緊急事態宣言が発令されました。主力だった就活イベントの売上は、7割が消えました。
どうシミュレーションしても、倒産でした。
そのとき飯田さんが全社に宣言したのは、コストカットの話ではありませんでした。
「一人もリストラしない」
その一言から会社がどう動いたのかを、飯田さんの言葉でたどります。
「どんなにリストラをしても、どうせ倒産する。だとしたら、奇跡を起こすしかない」
人事データではなく、「その人の内面」を測る
Qまず、現在はどのような事業をされているのでしょうか?
「Personality Tech」と呼んでいる技術を軸にしたHRTech事業です。
人の性格や心理状態——つまり「内面」を可視化する技術で、企業の採用と組織開発を支援しています。
主力は「ミキワメAI」です。
その中に、採用候補者と企業の相性を見極める「適性検査」、社員の心理状態を可視化する「ウェルビーイングサーベイ」、AIが一人ひとりの性格に合わせてマネジメントの方法を提案する「マネジメント」があります。
それとは別に、新卒学生向けの「ミキワメ就活」と「NEXVEL」も運営しています。
採用前の出会いから、採用、入社後の定着・活躍まで、幅広く支援しているかたちです。
これらのプロダクトは、それぞれ別の時期に、別の必要から生まれています。「ミキワメ 適性検査」が2020年4月、「ミキワメ ウェルビーイングサーベイ」が2022年、「ミキワメ マネジメント」が2025年2月。就活支援サービスは創業期から続く事業です。2026年2月、ブランド全体が「ミキワメ」から「ミキワメAI」へとリブランディングされ、同時に「AIマネジメント相談」「AIコーチ」という2つのAI機能が加わりました。
2026年時点で、「ミキワメAI」は累計6,000社以上、受検者は200万人を超えました。
Q他社の適性検査と、決定的に違うのはどこでしょうか?
単なる人事データではなく、「その人がどんな性格で、いま、どんな心理状態なのか」というところまで見にいっていることです。
一般的な適性検査は、採用時の見極めで終わりやすいんです。
受けてもらって、合否を決めて、それで終わり。
私たちのミキワメは、採用→定着→マネジメント→組織改善まで、同じ人材データを使い続けられます。
そこが強みだと思っています。
「同じデータを使い続ける」という設計は、プロダクトの機能説明を超えて、思想に近いところにあります。「ミキワメAI 適性検査」は、候補者だけでなく導入企業の在籍社員にも性格検査を受けてもらい、自社で活躍している社員の特徴と候補者を比較することで、その会社独自の採用基準をつくります。つまり「一般的に優秀な人」ではなく「この会社で活躍する人」を見にいく設計です。
「ミキワメAI ウェルビーイングサーベイ」は、スマホやPCから3分で完了するパルスサーベイです。特徴的なのは、事前に受けた10分の性格検査の結果に応じて、表示される質問項目が人によって変わること。性格の違いによってスコアの出方が偏るのを防ぐためです。同じ「元気です」でも、そう答えやすい人と答えにくい人がいる——その差を、あらかじめ織り込んでいます。
Qこの事業の原点は、どこにあるのでしょうか?
大学時代からずっと持っている問題意識です。
「なぜ、多くの人が仕事にやりがいを感じられないんだろう」という。
学生のときに、200人くらいにアンケートを取ったことがあって。
仕事にやりがいを感じている人が、2割しかいなかったんです。
それが、けっこうな衝撃でした。
その問題意識が、そのままプロダクトの設計につながっています。
飯田さんが起業した2008年、内閣府の「国民生活選好度調査」が示していた数字は18%でした。会社のミッションは、いまも「私たちは世界の人々の自己を実現したいという欲求に対して、社会の仕組みをDesignすることで、大きく有益なImpactを与えます」。18年前に街頭で数えた「2割」が、そのまま会社の存在理由として掲げられ続けています。
Q直近では、研修会社をグループに迎えられたと伺いました?
はい。情熱という研修会社を子会社化しました。
これまで私たちが得意としてきたのは、「人や組織の状態を測る」領域です。
そこから一歩踏み込んで、実際に人の行動を変えるところまでやろうとしています。
株式会社情熱の完全子会社化が発表されたのは、2026年7月9日。情熱社は2007年設立で、JT、金融庁、KDDIグループなど大手企業を中心に800社以上の導入実績と、7万人を超える受講者数を持つ研修会社です。フルカスタム型の「実践×失敗」型研修を手がけ、リピート率は約9割。代表は水野元気さんが務めています。
このM&Aの背景には、市場の変化があります。有価証券報告書での人的資本開示が、「研修時間や費用(インプット)」の開示から「研修投資がもたらした効果・業績への貢献(アウトカム)」の開示へと進化を求められるフェーズに入りました。一方で、企業の82%が「経営戦略と人材戦略の連動」を最大の課題として認識している(PwCコンサルティング調べ)。「サーベイや適性検査で組織の課題は可視化したものの、その後どんな具体策を打てばいいのか分からない」という状態が、広く残っているわけです。
リリースで、飯田さんはこう説明しています。「多くのお客様から『可視化のその先にある、具体的な組織開発や研修までを一貫して支援してほしい』という強いご要望をいただいておりました。実際、試験的に開始した研修事業では、パイロット期間だけで想定を大幅に上回る受注を獲得しました。この手応えが、今回の子会社化を決断した確信の一つです」。研修事業を、会社の「第3の柱」と位置づけています。
測るところで、止まらない。その一歩が、研修会社の子会社化だった。

「システムオブレコード」から「システムオブアクション」へ
Q今後、実現したいことは何でしょうか?
これまでは、データを蓄積するための「箱」をつくることが、DXの主戦場でした。
でも、そこはもう後半戦に入っていると思っています。
これからは、AIを活用しながら、人がどのような行動を取るべきなのかを示していく。
さらに言えば、AIエージェントが人の行動を代替していく領域です。
Q「箱」の次、ということでしょうか?
「システムオブレコード」ではなく、「システムオブアクション」だと考えています。
記録するためのシステムではなく、行動するためのシステム。
人のことを深く理解しながら、どうすればもっとうまくいくのかを考えて、取るべき行動を指し示すAIです。
この整理を、飯田さんは社外でも一貫して語っています。2024年のポッドキャスト出演では、「単にデータを整理するDXクラウドの時代から、どのような行動をすれば成果が上がるかを予測して支援できるようなAIのシステムが求められる時代になってきました」と話しています。2年前の言葉が、そのまま2026年のプロダクトになった形です。
実装も進んでいます。2026年2月にリリースされた「ミキワメAI AIマネジメント相談」は、部下の性格特性と現在のメンタル状態、さらに上司自身の性格特性まで踏まえて、最適なコミュニケーション方法をAIが助言する機能です。汎用的な生成AIとの違いは、社内の人事データをセキュアに連携させている点にあります。「一般論としての部下対応」ではなく、「あなたのチームのAさん」に特化した行動指針が出てくる。
同じタイミングで発表された「ミキワメAI AIコーチ」は、「あなた(個人の性格・ありたい姿・達成したい成果)」「周囲(他者評価)」「会社(期待・戦略)」の3つをAIが統合し、その人だけに最適化された成長戦略を提示するサービスです。リリースには、興味深い一文があります。「人から言われると受け入れにくい指摘」も、客観的なデータに基づきAIが伝えることで冷静な内省を促せる——AIを、人間関係の摩擦を減らす緩衝材として使う発想です。
Qその裏側を支えている組織があると伺いました?
「組織心理研究所」という研究チームを持っています。
6名が所属していて、学会にも15本ほど論文を出しています。
人の心・内面を可視化することに、正面からチャレンジしているチームです。
組織心理研究所は、リーディングマーク社内の研究機関です。所長は佐藤映さん。京都大学大学院教育学研究科の博士後期課程を経て、スクールカウンセリング、大学の学生相談、精神科クリニックなどで臨床心理の実践を積んだ心理臨床家です。公認心理師・臨床心理士の資格を持ち、大学の講師を務めたのち、同研究所の所長に就任しました。
研究所は、性格検査の測定尺度の設計、16タイプ分類ロジック、面接ガイドやマネジメントガイドの出力ロジック、さらに「ミキワメAI」の結果解釈プロンプトの内容まで監修しています。AIが出す言葉の設計に、心理臨床の専門家が直接関与している構造です。
活動は学会でも公表されています。直近では、2026年9月5日・6日に慶應義塾大学日吉キャンパスで開かれた産業・組織心理学会第41回大会で、4件の研究成果を発表しました。内訳は、職場AI導入の意味づけと心理的影響に関する一連研究3件と、従業員のウェルビーイングを支えるマネジメント行動に関する研究1件です。
このうち職場AIの研究は、勤務先でAIが導入されている就業者400名から得た1,600件の自由記述を基礎にしています。結果は、単純ではありませんでした。便利さや効率化を評価する記述は88.8%にみられた一方で、仕事の価値や役割が損なわれることへの懸念は41.0%。「影響が分からない、まだ判断できない」という記述も49.5%ありました。さらに、生成AIを前向きに捉えている人であっても、確認負荷や再学習圧力といった適応負担を伴う場合には、仕事における「自分らしさ感」との正の関連は消えていました。
AIを売る会社が、AI導入のネガティブな側面まで自社の研究として公表している——この取材日の2日前に発表された内容です。
Qなぜ、そこまで研究するのでしょうか?
やっていることは、採用とマネジメントをよくするサービスです。
人のことを深く理解しながら、どうすればもっとうまくいくのか。
そこを突き詰めていく以上、人の内面を扱う技術そのものを、自分たちで深めていく必要があると思っています。
記録するためではなく、行動するためのシステムをつくる。
飛行機に乗ったことすらなかった
Q学生時代は、どんな方だったのでしょうか?
超ドメスティック人材でした。
大学へ行くまで、海外に行ったことがない。飛行機にも乗ったことがない。
本当に、そういう学生でした。
飯田さんは1985年生まれ、神奈川県横浜市の出身です。2004年に私立浅野高校を卒業し、2005年に東京大学経済学部へ入学しています。
Qそこから、どう世界が広がっていったのでしょうか?
当時は、中国・韓国と日本の外交関係がよくない時代でした。
テレビをつけると、中国の方が日の丸を燃やしている映像が流れている。
「とんでもないニュースだな」と思ったんですが、同時に、こうも思ったんです。
「自分は、リアルに会ったり話したりしたことがないな」と。
Qそこで、OVALに出会われたのですね?
はい。中国人・韓国人・日本人の3カ国の学生が集まって、一緒にビジネスプランを作るビジネスコンテストがあると知りました。
参加者も運営も、全部学生です。
お互いの立場を踏まえながら、それでも共通のゴールをつくっていく。そのプロセスを通じて国際理解を深めていこう、という場でした。
OVAL JAPANは、日本・中国・韓国に支部を持つ学生団体です。"Our Vision for Asian Leadership"を理念に掲げ、東アジア最大規模の国際ビジネスコンテストを学生自身の手で運営しています。
Q運営側に回られたと伺いました?
運営メンバーになって、大学2年から代表を務めました。
それまで、世の中でリーダーになった経験なんてなかったんです。
それが、3カ国のメンバーを導きながら、年間2,000万円くらいのバジェットを動かすことになりました。
多くの方に協賛をいただいて、ご予算を預かって、イベントを推進していく。
終わったあとに参加者から「新たな世界が広がった」と言ってもらえて。
Qそれが、原体験になった?
世に働きかければ、影響を与えられる。変えられる。
そう思えた原体験のベースになっています。
Q3カ国の学生と向き合う中で、見えたことはありましたか?
中国や韓国もだいぶ変わってきているとはいえ、当時の中国には新卒・中途という考え方があまりなくて、実力をベースに優れた人が登用される社会でした。
財閥系が力を持っていて、そこに就職できないと生活が苦しくなりがちなんです。
だから、国内でチャンスが少ない人が海外へ出ていく。
目の前にいるのは、素敵で、思いがあって、いい人たちなんですよ。
それなのに、チャンスが少なくて、自分の思いを実現できている人が少ない。
Q日本は、どう見えたのでしょうか?
ふと日本に目をやったんです。
ちょうど就活生としてOB訪問・OG訪問をしていた時期で、いろいろな人の話を聞いていました。
そこで感じた違和感を確かめようと思って、国のレポートも見てみたんです。
そうしたら、仕事にやりがいを感じている日本人が20%だと。
少ないな、と思いました。
チャンスがないから思いを実現できない国と、チャンスはあるのに8割が「やりがいがない」と答える国。飯田さんは、その両方を同じ時期に見ています。
日の丸が燃える映像を見て、「会ったことがないな」と思った。そこから全部が始まった。

ビジネスモデルがないまま、勢いで起業した
Qそこから、起業に踏み切られたのはなぜでしょうか?
リーダー経験は少なかったけれど、チームで志を持てば世を変えていけるという、小さな成功体験がありました。
そのうえで、問題意識を持ってしまった。
気づいてしまった以上、見ないことにするのは違うなと思ったんです。
だったら、気づいた問題意識をもとに解決したらいい、と。
ビジネスモデルがないまま、勢いで起業しました。大学3年です。
創業は2008年1月。社名は株式会社ist。資本金は、飯田さん自身の貯金60万円でした。2011年9月に、社名を株式会社リーディングマークへ変更しています。
Q最初は、何から始めたのでしょうか?
学生を集めて、一人ひとりにマッチした就活のイベントを開催することから始めました。
創業初期を、飯田さんは別のインタビューでこう振り返っています。「元々は学生時代の仲間を含めた3人で起業して『1日テレアポ200件』するところからスタートさせました」。そして、「なかなかうまくいかない事もあり、一緒に起業した仲間は2人ともやめてしまいました」。
Qイベント事業から、なぜプロダクトへ向かわれたのでしょうか?
もっとスケールする仕組みをつくらないといけない、と考えたからです。
ネットの力を使えば、レバレッジがかかる。
世界の人が自己実現するために新しい仕組みをデザインするなら、プロダクトを作って、自分たちの価値をレバレッジしていかなければいけない。そう思いました。
Q最初のプロダクトが、「レクミー」だったのですね?
そうです。スマホで自分を撮影して、それを履歴書がわりにしていけるサービスでした。
当時は、うまくいきませんでした。
理由は、シンプルです。みんな、同じような動画になってしまうんです。
「レクミー」のリリースは2014年。地方の学生もエントリーしやすく、企業側も会う前に候補者を理解できる——構想としては、就活の常識を変えるものでした。メディアにも大きく取り上げられています。
ただ、蓋を開けると、届いたのはほぼ同じ構成の動画でした。飯田さんは後年、こう説明しています。「就活の学生は真面目なので、私は何々大学の何々と申します、学生時代に1番頑張ったエピソードはテニスサークルの新入生勧誘活動です、という杓子定規の動画になり、特に人気企業が大量に見るのは現実的ではないうえに評価できない」。ある企業からは「飯田さんの責任で採点してもらえますか」と言われ、社員総出で徹夜で採点したこともあったといいます。
この失敗は、事業だけでは終わりませんでした。2014年から2017年にかけて、組織が荒れます。当時をこう語っています。「事業がうまくいかない中で『こんなはずじゃなかった』ということで、どんどん人が辞めていく、組織的にも苦しい時代があった。離職率が3割を超える年が3年くらい続いた」。
そして、「社員が何を考えているのかわからず、気づいたらもう辞めることになっている経験が非常に多かった」。
のちに「ミキワメ ウェルビーイングサーベイ」というプロダクトになるものの原型は、この時期の痛みの中にあります。自社が、最初の患者でした。
Qレクミーは、どのくらい粘られたのでしょうか?
3年くらい粘りましたが、撤退しました。
そこで思ったのが、人のことを、もっと深く、瞬時に、定量的に明らかにできるものを作らないといけない、ということでした。
Qそこから、すぐミキワメに向かわれたのでしょうか?
いえ。世の中にないイノベーティブなものを出すのは、やはり難しいんです。
だから、すでに確立された技術の領域に入っていこうと考えました。
そこから4年近く研究開発をして、リリースすることになりました。
それが、2020年のミキワメです。
「確立された技術の領域に入る」という判断は、地味ですが、この会社の性格をよく表しています。適性検査という市場は、すでに強力なプレイヤーが存在する成熟市場です。そこへ、動画という新規性で勝負して失敗した会社が、あえて研究開発に4年をかけて入っていく。組織心理研究所という社内研究機関を持ち、学会で発表を続けている現在の姿は、この判断の延長線上にあります。
なお、資金面での消耗も小さくありませんでした。飯田さんは「2020年以前は、レクミーが失敗しましたが、このタイミングまでにエクイティで5、6億円を調達し、大部分を事業の失敗で失った」と振り返っています。
3年粘って、撤退した。そこから4年、研究開発に費やした。
ミキワメをリリースした翌日、緊急事態宣言が出た
Q最も大きな転機は、いつだったのでしょうか?
2020年です。
4年かけて開発したミキワメをリリースしたら、コロナになってしまいました。
Qタイミングは、どのくらい重なっていたのでしょうか?
2020年4月にミキワメをリリースして、その翌日に緊急事態宣言が出ています。
当時、私たちは年間何百本という就活イベントを主催していました。
それが、まったくできなくなった。売上が7割減少しました。
会社も潰れかけていて、新規事業が立ち上がるかどうかも怪しい。
この時期について、飯田さんは2026年2月のプレスリリースでもこう書いています。「2020年4月、『ミキワメ』をリリースしたまさにその時、私たちは倒産の危機に瀕していました。翌日に発出された緊急事態宣言により経済活動は停止。当時の主力事業の売上は7割消失する見込みとなり、創業12年目にして、私は自宅で一人、絶望と向き合っていました」。
Qコストを削るという選択肢は、なかったのでしょうか?
考えました。ただ、どんなにリストラをしても、どうせ倒産するんです。
計算しても、削っても、結論が変わらない。
だとしたら、奇跡を起こすしかない。
そして、奇跡を起こすための基盤になるのは、人です。
Qそこで、宣言をされたのですね?
「一人もリストラしない」ということを、全社に宣言しました。
「削っても倒産する」という状況把握が、逆に人を守る判断を導いた——ここがこの経営者の分岐点です。同じ趣旨を、飯田さんは別の場でこう語っています。「逆に一人もコロナを理由に解雇しない、ということでした。経営陣の給料は下がりましたが、メンバーの給料を変えることはありませんでした」。
そして、こう呼びかけたといいます。「こんな時代だからこそ、最後まで人の自己実現を支援できるHR領域マーケットを作っていこう」。
Qそこから、何が起きたのでしょうか?
「オンラインで就活イベントをやろう」と、いち早く開催しました。
15,000件くらいの申し込みがありました。
そして、コロナで人と会えない状況だったからこそ、ミキワメの有用性が伝わっていきました。
このオンライン転換のスピードを、飯田さんは「日本最速」と表現しています。「他社さんがついてくることができないペースで進めた」結果が、初回15,000件という数字でした。
そして皮肉なことに、会社を殺しかけた危機が、プロダクトの価値を証明することになります。リモートワークへの移行で対面のコミュニケーションが断たれ、上司は部下の状態が見えなくなり、面接では候補者の本質がつかめなくなった。「人の内面を可視化する技術」が必要とされる条件が、一気に揃ってしまったわけです。飯田さんの言葉では、「多くの企業様にとって暗闇の中の光となり、結果として私たち自身も救われることになりました」。
財務面では、政府のコロナ関連融資制度を使い、日本政策金融公庫や商工中金からのデットファイナンスで急場をしのいでいます。その後、2021年5月を皮切りにエクイティでの調達を再開。2025年2月には16.2億円を調達し、累計調達額は30億円を超えました。従業員数は、コロナ直前の30人規模から、2026年4月時点で211名になっています。
Qその経験で、価値観はどう変わりましたか?
3つあります。
志を掲げ続けること。
そこに向けて熱狂する仲間を集めながら、最後まで諦めないこと。
そして、成功するまでやり続ければ、それは成功になる、ということです。
この時期を境に、会社はバリューを作り直しています。現在掲げられている6つのバリューは、「全部自分ごと」「理想から逆算」「爆速でトライ」「期待を超える」「みんなで勝つ」「正しさへのこだわり」。社員有志による「バリュー浸透委員会」が立ち上がったのも、この経験の後です。
飯田さんは、低迷期をこう総括しています。「16年中12年はずっと苦しく低迷していました。1番きつかったのは『事業がうまくいかないこと』ではなく、『組織がうまくいかないこと』でした」。
削っても倒産する。だから、一人も削らないと決めた。

掲げて、宣言すると、人が現れる
Qこれから社会に出る若者に、最も伝えたいことは何でしょうか?
チャレンジをするときに、「こういうことをやっていきたい」と掲げて、宣言することです。
そうすると、それを応援したい、一緒にやっていきたい、という人が現れてきます。
Q起業に限った話ではない、ということでしょうか?
まったく限りません。プライベートの話でも同じだと思います。
志を掲げて、周りに表明する。
そして、大変な状況になっても諦めない。
Q掲げても、うまくいかないこともあると思います。それでも続ける意味は、どこにあるのでしょうか?
短期的には、うまくいく人といかない人が出てきます。
でも、中長期的には集約されていくんです。
ある程度の期間、正しい志を掲げて、発信をして、やり続けていれば、道は拓けます。
この言葉には、本人の実例があります。2021年、コロナ後の最初の資金調達でリードを引き受けたのは、フェムトパートナーズでした。その担当者と飯田さんの接点は、10年ほど前に他のベンチャーキャピタルが主催した交流会での挨拶だけ。それを相手が覚えていて、「コロナで大変だったのに頑張っていますね」と声をかけられたことが、調達につながったといいます。飯田さん自身の評価は、「粘り強く頑張る人だとご期待、ご評価をいただいたのが大きい」。
掲げ続けたことが、10年越しに返ってきた例です。
Qもう一つ、大切にされていることはありますか?
人とのご縁を大切にすることです。
コロナのときに、私は自分自身で宣言しました。
メンバーの雇用は必ず守る。給料は下げない、と。
あれは、チームの想いが一つになるうえで、非常に大きなポイントだったと思っています。
人の可能性を信じて、一つ一つのご縁を大切にしながら進んでいく。
そこは、これからも変わらないと思います。
掲げて、宣言する。応援したいという人は、そのあとに現れる。
EDITOR'S NOTE / 編集後記
飯田悠司さんの18年は、「見てしまったものを、見なかったことにしない」という一点で通っています。
日の丸が燃える映像を見て、「会ったことがないな」と思った学生は、日中韓の学生団体の代表になりました。
就活生として社会人の話を聞いて違和感を持った学生は、街頭で200人に声をかけ、「やりがいを感じている人は2割」という数字を自分の手で確かめました。
そして、確かめてしまった以上、ビジネスモデルがないまま起業しています。
その後の道のりは、決してきれいではありませんでした。
最初のプロダクトは大失敗し、エクイティで調達した5〜6億円の大部分を失いました。離職率が3割を超える年が3年続き、「社員が何を考えているのかわからず、気づいたらもう辞めることになっている」状態を、経営者として何度も味わっています。
そして4年の研究開発を経てリリースした日の翌日に、緊急事態宣言が出ました。
このとき、飯田さんの計算は「どんなにリストラしても、どうせ倒産する」でした。
普通なら絶望の結論です。しかしこの人は、そこから「だから一人もリストラしない」へ抜けています。奇跡を起こすしかない、奇跡を起こす基盤は人だ、という理屈で。
結果として、会社はオンライン転換を日本最速で成し遂げ、初回イベントに15,000件の申し込みを集め、ミキワメは6,000社・200万人のプラットフォームになりました。
いま、その会社は「測る」の次に進もうとしています。
システムオブレコードではなく、システムオブアクション。記録するためではなく、行動するためのシステム。研修会社の子会社化も、AIコーチも、その一本の線の上にあります。
興味深いのは、AIを売る会社でありながら、組織心理研究所が「職場AI導入が働く人の心理に与える負担」まで研究し、その結果を学会で公表していることです。便利だという声が88.8%ある一方で、仕事の価値が損なわれる懸念が41.0%ある——都合のいい数字だけを出さない姿勢は、「正しさへのこだわり」というバリューの、静かな実践のように見えます。
18年前、街頭で2割という数字を数えた人が、いまは6,000社・200万人分の内面のデータを預かっています。
その数字が、いつか2割ではなくなる日まで。
リーディングマークと飯田さんを、追い続けたいと思います。
1985年生まれ、神奈川県横浜市出身。2004年に私立浅野高校を卒業、2005年に東京大学経済学部へ入学。在学中、日中韓の学生による国際ビジネスコンテストを運営する学生団体で代表を務め、年間約2,000万円規模のイベント運営を経験する。
就職活動中のOB・OG訪問と自身の街頭調査から「仕事にやりがいを感じている人は2割しかいない」という現実に突き当たり、2008年1月、大学3年生のときに貯金60万円を資本金として株式会社ist(現・株式会社リーディングマーク)を創業。2011年9月に社名を変更した。
創業期は学生と企業をつなぐ就活イベント事業からスタートし、2014年に動画レジュメサービス「レクミー」をリリースするも撤退。その後約4年の研究開発を経て、2020年4月に適性検査クラウド「ミキワメ」を、2022年に「ミキワメ ウェルビーイングサーベイ」をリリースした。2025年2月には「ミキワメ マネジメント」、2026年2月にはブランドを「ミキワメAI」へリブランディングし、「AIマネジメント相談」「AIコーチ」を投入。2026年7月には研修会社・株式会社情熱を完全子会社化し、「測る」から「行動変容」までを一気通貫で支援する体制づくりを進めている。
株式会社リーディングマーク
2008年1月設立。東京都港区虎ノ門3-8-21 虎ノ門33森ビル10階。代表取締役社長・飯田悠司。「Personality Tech」を通じたHR事業を展開し、主力は「ミキワメAI 適性検査」「ミキワメAI ウェルビーイングサーベイ」「ミキワメAI マネジメント」「ミキワメAI AIコーチ」。ほかに新卒領域の「ミキワメ就活」「NEXVEL」、オウンドメディア「ミキワメラボ」、社内研究機関「組織心理研究所」を持つ。「ミキワメAI」の累計利用企業数は6,000社、累計受検者数は200万人(2026年2月時点)。資本金36.0億円(資本準備金含む)、従業員数211名(2026年4月時点)。2025年2月に16.2億円を調達し、累計調達額は30億円を超えた。
コーポレートサイト:https://www.leadingmark.jp/
サービスサイト:https://mikiwame.com/
組織心理研究所:https://oprl.mikiwame.com/
