東京都内を中心に、コンシェルジュ付き経営者コミュニティ「RASHISAフィロソフィーサロン」を展開する株式会社RASHISA。
交流会や会食の開催にとどまらず、一人ひとりの経営者と対話し、個別紹介や定期的な面談を通じて、継続的な出会いを生み出していることが特徴だ。
同社を率いる岡本翔さんは、大学3年生で起業。就職支援やWebサービス、虐待を受けた経験を持つ人の強みを活かしたBPO事業など、約10年にわたり、さまざまな挑戦を重ねてきた。
現在掲げている目標は、会員数の成長率と既存会員様の満足度が日本No.1の経営者コミュニティをつくること。そして、その先には「ビジネスの力で虐待問題を解決する」という、生涯をかけたテーマがある。
順風満帆だったわけではない。上京直後には事業も資金調達も思うように進まず、「お先真っ暗」な時期を経験した。原体験に直結する事業に約6年間取り組むなかで、思いだけでは事業は続かないことも学んだ。
それでも、虐待問題に生涯関わるという軸は揺らいでいない。変えたのは、山の登り方だ。
起業を志した学生時代、虐待問題と向き合うことになった原点、先が見えなかった時期に得た学び、そして次代を創る若者へ伝えたいことを伺った。
「まずは、がむしゃらに経験しよう。その経験を持ったうえで、本当に必要とされているものに挑戦しよう」
イベントを開いて終わりにしない。経営者一人ひとりに伴走する
Q現在は、どのような事業を行っていますか?
東京都内を中心に、コンシェルジュ付きの経営者コミュニティを運営しています。交流会や会食を開くだけではなく、会員の方同士を個別におつなぎするところまで支援するコミュニティです。コンシェルジュが年間を通じて伴走し、その会社様にとって最適な出会いを、交流会や会食、個別のご紹介を通じてしっかりとマッチングしていく。そこが私たちの強みです。
経営者コミュニティの中には、入会して1年間、十分なフォローがないケースもあります。私たちが大切にしているのは、そこから先です。
具体的には、まずテキストでのコミュニケーションを、月に1〜2回、会員様と1対1で取っています。そのうえで、3カ月に一度、30〜45分の定例ミーティングを行っています。会員様がちゃんとコミュニティを活用できているかをヒアリングしたり、事業のアップデートがないかを伺ったりして、そのタイミングで最適な出会いを提供する。
一人ひとりと直接話しながら、どのような相手と出会いたいのかを把握し、その方に合う経営者をおつなぎする。この伴走が、本当にうちの強みだと思っています。
Q定例ミーティングでは、どのようなことを伺うのでしょうか?
会員にはBtoB事業を営む経営者が多いので、直近で受注した事例などをお聞きします。BtoBは事例が命ですし、横展開できるものだと思っています。ですから、その事例に合わせて、ご紹介できる方をおつなぎしています。現在抱えている課題や、どのような会社と出会いたいのかも伺い、条件に合う企業を探します。
あわせて、コミュニティ内の最新情報もお伝えしています。たとえば「最近はこんな企画が始まりましたが、参加されますか」といった形です。会員様のビジネスの近況を伺うことと、コミュニティの動きをお伝えすること。その両方向でコミュニケーションが生まれるようにしています。
信頼できる相手からの紹介が、新しい取引のきっかけになることも少なくありません。だからこそ、ただ会員数を増やすのではなく、実際のビジネスにつながる関係を丁寧につくることを重視しています。
Q今後は、どのようなコミュニティを目指しますか?
経営者コミュニティは2026年1月に本格的にスタートし、現在は80社弱に参加いただいています。年内の目標は、少なくとも150〜200社です。今はそこを追いかけて頑張っているところです。
ただ、数だけを追うつもりはありません。一人ひとりへのフォローや個別紹介の質を保ちながら会員数を伸ばしていく。そのうえで、将来的には、会員数の成長率と既存会員様の満足度が日本No.1の経営者コミュニティをつくりたいと思っています。
「BtoBは事例が命。だからこそ、実際のビジネスにつながる関係を丁寧につくる」
「まだ侍になりきれていないよね」——背中を押されたひと言
Q岡本さんは、どのような学生時代を過ごしましたか?
小学生から高校生まで、ずっとバスケットボールをしていました。プロを目指していた時期もありましたが、高校3年生のときにバスケットボール選手の夢を諦めました。そこから、起業家という生き方を考えて大学に進学しました。
大学時代は、旅をしたり、インターンシップをしたりしていました。旅では、ヒッチハイクで日本一周をしたり、カナダのバンクーバーに一人で行ったりもしました。バックパッカーとして海外を回ったこともあります。
インターンシップは大学1年生の頃から取り組み、長期インターンでセールスや事業の立ち上げを経験しました。学生団体の活動にも従事していましたね。行動力はあるタイプだったと思います。
そうした経験を重ねるうちに、起業が自分にとって現実的な選択肢になっていきました。今振り返るとあまり良くなかったと思うのですが、当時は起業そのものが目的になっていて、「起業したい」という思いがすべてでした。
Qそこから、実際に起業へ踏み切ったきっかけは何でしたか?
起業したいと思って大学生になり、「起業するぞ」と周りにも言っていました。ただ、結局、最終的なアクションまではできていなかった。最後まで振り切れていない自分がいたんです。
そんなとき、とある社会人の方から言われたのが、「まだ侍になりきれていないよね」という言葉です。侍になりきれていない、つまり、覚悟が決まっていないという意味です。
もともと行動力はあるつもりでした。ただ、その言葉を受けて、中途半端な状態にいる自分に気づかされました。
当時、起業をしたいとは言うものの、最終的な行動までできていなかった自分がいます。そのような中で背中を押してもらった経験になりました。
そして大学3年生のときに、現在のRASHISAを創業しました。
「侍になりきれていない。その言葉で、中途半端な自分に気づかされた」
原体験と向き合い、生涯をかけて関わると決めた虐待問題
Q約10年にわたる経営者人生の中で、大きな転機となった出来事は何でしたか?
RASHISAは現在、10期目を迎えています。その中でも大きな転機になったのは、創業3期目の終わり頃に、それまでの事業をやめて、虐待問題に関わる事業を始めたことです。3期目から10期目の頭まで、約6年間挑戦しました。
私のきょうだいには、家庭の事情を理由に児童養護施設で暮らした経験を持つ弟と妹がいます。そのため、虐待問題は以前から自分の原体験と深く結びついたテーマでした。
ずっと問題意識を持っていて、いつか何らかの形で解決に関わりたいという思いはありました。ただ、当時の自分には、20代で取り組むには難しすぎる問題だとも感じていました。関わりたいと思いながら、なかなか挑戦できない自分がいたんです。
それでも、学生起業をして上京し、もっと挑戦したいと思っていた。そのなかでいろいろな経営者の方と出会い、本当に自分がやりたい虐待問題に挑戦しようと思えるきっかけをいただきました。
Q実際に事業として取り組むようになったのは、なぜですか?
資金調達を検討していた時期に、ある先輩経営者と何度も話す機会がありました。4回ほどのミーティングを通じて、「本当は岡本君がやりたいことは何なの」と問いかけてくれたんです。
その方は答えを与えるのではなく、「自分が本当にやるべきことは何なのか」を繰り返し問いかけてくれました。私が「お金持ちになって、40代で虐待問題に関わる事業をやりたいです」とお伝えしたところ、「本当に今からやるんだったら応援するよ」と言ってくださった。そこで、虐待問題に取り組もう、事業を変えようと思いました。
誰かに決断してもらったわけではありません。意識的に「誰かに相談して決めよう」としていたわけでもないんです。自分の中にどこかモヤモヤがあるときに、素晴らしい人生の先輩方と出会い、結果的に背中を押してもらっている、というのが正しいと思います。
対話を重ねることで、自分を客観的に見られるようになり、本当に向き合いたいことが少しずつ明確になりました。そこで、虐待問題は自分が生涯をかけて関わるテーマだと決めました。
Qその思いは、どのような事業につながったのでしょうか?
虐待を受けた経験があり、働きづらさを抱える方々を採用し、その方々の強みを活かしたBPO事業を立ち上げました。
虐待は、子どもの頃だけで終わる問題ではありません。その後の心身の健康や生活、就労にも長期的な影響を及ぼします。虐待に関する国の予算は、4,500億円ほどが使われています。ただ、これは18歳以下の子どもたちに対する予算です。私たちが取り組んだのは、虐待を受けたあとに働きづらさを抱えている大人の、雇用機会への投資でした。
虐待を受けた人は、そうでない人に比べて、無職になる確率が3倍高いと言われています。そして、無職の人が一人、納税者になるだけで、国にとって1年間で800万円ほどのインパクトがあると言われています。私たちの試算では、虐待を受けて、今は無職であったり、正規雇用されていなかったりする人が約40万人います。その半分の20万人でも働けるようになれば、800万円×20万人で、1兆円以上の経済的インパクトになります。
また、国内研究では、2012年度における児童虐待の社会的コストは、対応にかかる直接費用と長期的な影響による間接費用を合わせ、少なくとも年間約1.6兆円と推計されています。
一人ひとりの人生に関わる問題であると同時に、社会全体で向き合わなければならない課題でもあります。
Q約6年間、原体験に直結する事業へ取り組む中で、事業に対する考え方はどう変わりましたか?
マクロで見れば大きなマーケットではあっても、そこに行くまでのミクロの部分、つまり一つの事業として成立させることが難しかった。その経験から、「自分の原体験に結びついているから」という思いだけでは、持続可能な事業をつくれないと学びました。
自分がやりたいことだけを追うのではなく、まずは世の中から必要とされる事業をつくる。その事業を成長させる力があってこそ、社会課題にも長く向き合えるのだと思います。
ただ、虐待問題に生涯関わるという軸は変わりません。やろうと思っていて、できていなかったことを、やろうと決めた。自分は70歳くらいまで現役でいたいという気持ちが強くあるのですが、生涯をかけてこの問題に取り組む。自分が本当にやりたいことは、生涯をかけてやる。それが、私の価値観の一つです。
そのための手段は一つではありません。今は山の登り方を変えて、世の中に求められることにきちんと取り組み、それをもとにもう一度挑戦しようと考えています。
「山の登り方を変えて、世の中に求められることをやる。それをもとに、もう一度挑戦する」
お先真っ暗な状況で見つけた、「求められるものをつくる」という答え
Qこれまでで、最も苦しかった時期はいつですか?
会社にお金がないといった事実の面と、感情の面があると思いますが、一番苦しかったのは、もっと挑戦するぞと思って上京した2018年から2019年頃です。
もともと福岡で就活支援事業を行っていたのですが、その事業を当時の福岡のメンバーに任せて、私は上京しました。当時流行っていた、教育とテクノロジーを掛け合わせたEdTechのサービスをつくろうと思ったんです。
ところが、事業は思うように進まず、資金調達もできない。事業のために借り入れもしていました。やりたいことが実現できず、先行きも見えない。本当にお先真っ暗な状態で、経営者として非常に苦しい時期でした。
Qその状況を、どのように乗り越えたのでしょうか?
自分が「やりたいこと」は一旦置いておいて、「得意なこと」「できること」、そして社会から求められていることに取り組もうと切り分けました。
福岡で就活支援事業をしていたので、新卒採用のマーケットの感覚はなんとなくありました。そこで、自分たちがやりたかったEdTechの事業ではなく、人材紹介会社へ学生を送客するWebサービスを立ち上げました。当時の自分にできることであり、身近な人から実際に求められている事業でもありました。
最終的に、その事業を約500万円で売却し、それまでの借り入れを返済しました。その資金と経験をもとに、虐待問題の事業という次の挑戦へ進みました。
その経験から学んだのは、身近な人や社会から求められているものに取り組む大切さです。当たり前と言えば当たり前ですが、自分がやりたいことよりも、まずは社会や身近な人、上司のような人から求められることをやった方がいい。
自分のやりたいことを持つのは大切です。ただ、それが独りよがりになれば、事業としては続きません。自分の思いと、世の中が必要としていること。その二つが重なる場所を見つけることが、経営では重要だと思います。
Q経営に悩んだときは、どのように気持ちを切り替えていますか?
自分の悩みを、必要以上に大きく捉えないようにしています。
苦しかった当時も、すごく助けになったのが、自分より2桁ほど違う規模でビジネスをしていた友人の存在です。身近には、数十億円規模の事業に挑戦している友人もいます。そうした人の挑戦に触れると、自分の悩みが小さく感じられるんです。
半年に一度くらいは、島や離島など、大自然の中へ出かけています。そうした場所に立つと、物理的に自分がとても小さな存在だと分かる。家の近くにある東京スカイツリーを眺めることもあります。自分を超える壮大なものに触れると、自分の存在や悩みの小ささを再認識できるんです。大きなものを見ることは、定期的によくやっていますね。
視野が広がることで、もう一度前へ進めるようになります。
「自分の思いと、世の中が必要としていること。その二つが重なる場所を見つける」
次代を創る若者へ
Qこれから社会に出る若者へ、最も伝えたいことは何ですか?
まずは、がむしゃらに行動し、さまざまな経験をしてほしいです。
私自身、バスケットボールに打ち込み、旅をして、海外へ行き、インターンを経験し、学生のうちに起業しました。うまくいったことだけでなく、失敗したことや、先が見えなくなった時期も含めて、すべてが今の自分につながっています。
自分がやりたいことをまずやってみるのは、いいことだと思います。ただ、そこで失敗したとしたら、そのあとは、求められることを一生懸命頑張ってほしい。10代後半から20代の中盤、後半にかけてがむしゃらに働き、そこで得たスキルセットやつながりを通じて、30代以降で本当にやりたいことに挑戦する。結果的に、そのほうが個人にとっても社会にとってもインパクトがあると思っています。
最初から自分の人生のテーマや、社会における役割が分かる人は多くありません。だからこそ、若いうちは考えるだけで終わらず、まず動いてみることが大切です。そのうえで、自分がやりたいことだけに固執せず、周囲や社会から必要とされているものにも目を向けてほしいと思います。
Q20代の自分に、今ならどのような言葉をかけますか?
「まずは、がむしゃらに経験しよう。その経験を持ったうえで、本当に必要とされているものに挑戦しよう」と伝えます。
これは若い人たちへのメッセージであると同時に、過去の自分にも伝えたいことです。
自分の思いを大切にしながら、社会の声にも耳を傾ける。その両方を持つことで、自分にしかできない挑戦が見つかるのだと思います。
「がむしゃらに得たスキルとつながりで、30代以降に本当にやりたいことへ挑戦する」
EDITOR'S NOTE / 編集後記
原体験から生まれた志を持ちながら、その実現方法には固執しない。
岡本さんの言葉からは、理想だけでも、目の前の利益だけでも事業は続かないという、約10年にわたる経営で得た実感が伝わってきました。
「山の登り方を変える」という表現が印象に残っています。頂上は変えずに、そこへ至る道を選び直す。お先真っ暗だった時期も、原体験に直結する事業に挑んだ6年間も、その選び直しのための経験だったのだと感じました。
「がむしゃらに経験したあと、必要とされるものに挑戦する」。
その言葉は、やりたいことと社会のニーズの間で悩む若者に、次の一歩を示してくれます。
株式会社RASHISA代表取締役。学生時代にセールスや事業立ち上げの長期インターンを経験し、大学3年生で同社を創業。就職支援やWebサービス、虐待を受けた経験を持つ人の強みを活かしたBPO事業などに取り組む。現在は東京都内を中心に、コンシェルジュ付き経営者コミュニティ「RASHISAフィロソフィーサロン」を運営。会員数の成長率と既存会員様の満足度がNo.1の経営者コミュニティを目指している。
※児童虐待の社会的コストに関する記述は、和田一郎・五十嵐中「The social costs of child abuse in Japan」(2014年)に基づく。同研究は、2012年度の日本における児童虐待の社会的コストを、直接費用約990億円、間接費用約1.5兆円、合計で少なくとも約1.6兆円と推計している。
