社長の代わりには、やらない——独立系VC・キャロットキャピタル辻隆章が、経営者を代えずに立て直す理由 – ZEROWORKS(ゼロワークス)
EXECUTIVE INTERVIEW
No.084
EXECUTIVE INTERVIEW

14社に投資して、社長は、代えない

COMPANY
キャロットキャピタル株式会社
NAME
辻 隆章
CATEGORY
M&A・投資
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52 Views#ベンチャーキャピタル#事業再生#キャリアチェンジ

社長の椅子には、座らない。

事業再生の現場に入るとき、辻隆章さんが決めていることです。

うまくいっていない会社に、投資家が資本を入れる。よくある続きは、経営陣の入れ替えです。ところが辻さんは、そこで社長を代えようとしませんでした。

「もともと経営していた人の代わりに、自分がやれるとは思わないんです」

社長も役員も、そのまま。自分は、その横に座る。

「横で伴走して、指導する。それが自分のスタンスでした」

キャロットキャピタル株式会社 代表取締役。2022年に設立した、独立系のベンチャーキャピタル兼投資会社です。スタートアップに資金を入れ、入れたあとの経営に伴走する。資金調達、経営戦略、M&A、IPOまでを射程に入れた支援をしています。

もうひとつ、名刺がありました。東証グロース上場、イメージ情報開発株式会社の元取締役。上場企業の経営管理を実務として担い、企業投資やM&Aも見ていました。

さらにもうひとつ。港区立産業振興センターの公認メンターとして、エクイティファイナンス、ピッチ、資本政策を、スタートアップ経営者に教えています。

投資する人。経営する人。教える人。三つを同時にやっている人は、そう多くありません。

そして、ここに至るまでの道が、かなり変わっています。

マクニカ。日本ゴア。メガスポーツ。光通信。Oakキャピタル。証券会社。テクノロジー商社、外資系メーカー、小売、通信、PEファンド、証券。ひとつの業界に留まった年が、ほとんどありません。

もともとは、研究者になるつもりでした。岡山大学大学院の工学研究科で、理科系の学生として。

「すごく遠回りをしてしまった、という感覚はあります」

ご本人は、そう言います。

けれど、その遠回りのひとつひとつが、いまの仕事の部品になっています。数字とピッチだけを見て投資判断をするのではなく、「この会社は、実際にどう経営すれば伸びるのか」まで見る。それができるのは、投資する側と、される側の両方に座ったことがあるからです。

「集めるところで、終わらないんです」

どう資金を集めるか、ではなく、集めた資金でどう会社を伸ばし、最後にIPOやM&Aまで持っていくか。辻さんが見ているのは、そこまでです。

1969年生まれ、和歌山県出身。57歳。

遠回りの、全部を使っている人の話を伺いました。

「代わりには、やらない。横に座って、経営のやり方のほうを変えていきます」

01
SECTION 01

二つの椅子に、同時に座る。

まず、いま何をされているのかから伺いました。

Q現在どのような事業をされているのでしょうか?

キャロットキャピタルは、2022年に設立した独立系のVC・投資会社です。スタートアップへの投資と、投資したあとの経営支援をしています。

お金を出して終わり、ではありません。資金調達、経営戦略、M&A、IPOを見据えたところまで、経営支援として伴走しています。

法人としてのキャロットキャピタルは、2022年4月18日の設立です。事業目的は「投資事業並びに有価証券の売買、保有及び運用事業」。現在の所在地は、東京都港区芝の札の辻スクエア9階です。

投資先として名前が出ている会社のひとつが、チャットツールの最適化サービスを手がける株式会社Zenmetryです。2024年6月に発表されたシードラウンドで、ユナイテッド株式会社、コンカー元代表取締役の三村真宗氏、One ip弁理士法人、Power Angels所属の個人投資家、既存投資家のMIRAÍSEとともに、キャロットキャピタルが引受先に名を連ねています。

そのリリースに、辻さんのコメントが載っています。

「コミュニケーションが頻繁になるほどチャットツールの整理は重要になっているのを多くの方から良くきます。本サービスがより使いやすいツールになることを心から期待しています」

もうひとつ、公開されている出資先があります。プロ卓球チーム「琉球アスティーダ」を運営する、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社です。TOKYO PRO Market上場企業で、2022年12月の第三者割当増資に、キャロットキャピタルが割当先のひとつとして入りました。

同社の開示資料には、選定理由がこう書かれています。

「キャロットキャピタル株式会社は、ベンチャーキャピタル事業にてスタートアップ企業の支援を行っています。当社の次のIPOに向けてのサポートや採用人材の選定など、企業価値向上のためにご協力いただける可能性も秘めており、割当予定先として選定いたしました」

「次のIPOに向けてのサポート」と「採用人材の選定」。資金ではなく、その二つが選定理由に書かれているところに、この投資家の使われ方が出ています。

Qキャロットキャピタル以外のお仕事も伺っています。どういったものでしょうか?

上場企業のイメージ情報開発株式会社で、取締役として経営管理を担当していました。企業投資やM&Aなど、実際の事業会社側の経営にも携わっていました。

イメージ情報開発株式会社は、東証グロース上場(証券コード3803)。1975年に設立され、2006年に上場した会社です。ITソリューションとBPO・サービスの二つの事業を持ち、企業のIT戦略支援からシステムの設計構築・運用保守・業務アウトソーシングまでを手がけています。辻さんは2023年6月に取締役経営管理部長に就任し、2026年6月まで務めました。

Q三つ目のお仕事として、メンター活動もされていますね?

港区立産業振興センターの公認メンターをしています。スタートアップの経営者に対して、エクイティファイナンスやピッチ、資本政策などの支援や教育を行っています。

港区立産業振興センターで辻さんが登壇したセミナーは、公開されているだけでも複数あります。「スタートアップのための 初めての資金調達ガイド」(2025年6月)、「後継者不在時代に知っておきたい はじめてのM&A・事業承継セミナー」(2025年8月)、「スタートアップのためのエクイティファイナンス入門」(2026年2月)。

資金調達の種類、ステップ、ピッチ資料の構成、投資家が見るポイント、初回調達で注意すべき落とし穴、用語解説、ケーススタディ。プログラムの目次を見ると、教えている中身がわかります。

さらに、EYアクセラレータープログラム第5期には、VC/CVC枠のメンターとして参加しています。

投資する人、経営する人、教える人。名刺が三枚あります。

02
SECTION 02

「投資家だけ」では、ない。

では、この投資家の強みはどこにあるのか。答えは、経歴そのものにありました。

Q御社ならではの強みは、どこにあるとお考えでしょうか?

一番特徴的なのは、私自身が「投資家だけ」ではない、ということだと思います。

事業会社でのキャリアを経て金融業界に移り、Oakキャピタルではプライベート・エクイティ投資に加えて、投資先企業に実際に入って経営の立て直しも経験しました。

そのあと、公開企業のエクイティファイナンス支援、証券会社、上場企業の経営管理・IR・M&Aまで経験しています。

だから、「どう資金を集めるか」だけでなく、「集めた資金でどう会社を成長させ、最終的にIPOやM&Aにつなげるか」まで見られる。そこが強みだと思っています。

「集めるところまでではなく、その先まで見られるかどうかなんです」

Qこれまでのキャリアは、かなり異色だと伺っていますが?

マクニカ、日本ゴア、メガスポーツで取締役、光通信、Oakキャピタル、証券会社と移ってきました。

テクノロジー、メーカー、小売、金融、投資、上場企業経営。かなり異なる立場から、企業を見てきたことになります。

だからこそ、数字やピッチだけを見て投資判断をするというより、「この会社は実際にどう経営すれば伸びるのか」まで考えられる。そこが自分の特徴かもしれません。

ここに書かれている社名を、業界で並べ直すと、こうなります。半導体商社。外資系素材メーカー。総合スポーツ用品小売。通信・法人営業。PEファンド。証券会社。そして上場ITサービス企業。

普通、投資家のプロフィールは、金融の中で完結します。銀行から証券へ、証券からファンドへ。それに対して辻さんは、事業会社を20年以上渡り歩いたあとに、金融の世界へ入っています。

見てきた景色の順番が、逆なのです。

辻 隆章
理系の視点でマーケティングができる人がいないな、と思ったんです。
03
SECTION 03

研究者になるつもりだった。

その遠回りの、出発点に戻ります。

Q学生時代は、どんな方だったのでしょうか?

大学院に通っていて、研究者になるつもりでした。

岡山大学大学院の工学研究科です。和歌山県の出身で、理系の人間として、そのまま研究の道に進むものだと思っていました。

Qその進路を変えたのは、何がきっかけだったのでしょうか?

企業に入ってみると、理系の視点でマーケティングができる人がいないな、と思ったんです。

そこに、自分の価値を見出しました。

この一文は、さらりと語られましたが、辻さんのキャリア全体を説明してしまう言葉です。

技術がわかる人は、技術の言葉で話します。マーケティングの人は、市場の言葉で話します。その両方の言葉を持っている人が、当時は少なかった。だから自分はそこに立とう、と決めた。

のちに投資の世界に移ったときも、同じことをしています。金融の言葉と、事業経営の言葉。その両方を話せる人が少ない場所に、自分を置いた。

Qファーストキャリアは、どちらでしたか?

株式会社マクニカです。3年ほどいて、BtoBのマーケティングを担当していました。

マクニカは半導体やネットワーク機器を扱う技術商社です。理系の大学院を出た人間が、研究室ではなく、商社のマーケティングに入った。ここで、辻さんのキャリアのベースが「研究」から「事業」に切り替わります。

「理科系の視点でマーケティングできる人がいない。そこに、自分の価値を見出したんです」

04
SECTION 04

18年いた会社を、辞めた。

そして、辻さんのキャリアで最も長い章が始まります。

Qマクニカのあとは、どちらへ?

日本ゴアに移りました。18年、いました。マーケティングと営業です。

日本ゴア。ゴアテックスで知られる、W.L.ゴア&アソシエイツの日本法人です。外資系の優良企業で、給与も福利厚生も整っていました。

18年。1998年から2016年まで。20代の終わりから、40代の半ばまでです。

Qこれまでで最も大きな転機は、何でしたか?

日本ゴアを辞めた時です。

優良企業で安定していて、給料もよくて、福利厚生もよかった。それを思い切って飛び出ました。

Q辞めることを、どうやって決めたのでしょうか?

早期退職の募集があり、それに応じました。

残ることも選べたんです。でも、ぬるま湯に浸かっていてはいけない、と思いました。自分を高めていける世界に進んでいきたい、と。

40代半ば。18年在籍した外資系優良企業。安定した給与と福利厚生。残るという選択肢が、目の前にある。

ここで残っていたら、いまの辻さんはいません。

「ぬるま湯に浸かっていてはいけない、と思ったんです」

キャリアの転機を語る人の多くは、「やりたいことが見つかった」と言います。辻さんの言い方は、それとは違いました。やりたいことが見つかったから出たのではなく、このままでは自分が高まらないと思ったから出た。

行き先が決まっていたから出たのではありません。出たから、行き先ができた。

05
SECTION 05

経営の、側に立つ。

飛び出した先で、辻さんは初めて「経営する側」に回ります。

Q日本ゴアのあとは、どちらへ行かれたのでしょうか?

メガスポーツです。スポーツオーソリティを運営している会社ですね。2年間、取締役として経営に参画しました。

Q次は光通信ですね。どんなオファーだったのでしょうか?

「新規事業を作ってほしい」というオファーでした。1年です。

ここまでの流れを、もう一度並べてみます。

技術商社でマーケティング。外資系メーカーでマーケティングと営業、18年。小売企業で取締役として経営。通信企業で新規事業の立ち上げ。

外資と日系。BtoBとBtoC。大企業のマーケティングと、経営の意思決定と、ゼロからの事業立ち上げ。

このあと辻さんは金融に入るのですが、その時点で手元にあった経験は、投資家としては珍しい種類のものでした。財務モデルを組んだ経験ではなく、実際に組織を動かした経験。

投資先の社長が困っているとき、何に困っているのかがわかる。それは、自分が同じ椅子に座ったことがあるからです。

「取締役として、経営に参画しました。数字を見る側ではなく、決める側です」

辻 隆章
人を入れ替えるのではなく、やり方を入れ替えるんです
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SECTION 06

代わりには、やらない。

そして、辻さんは金融の世界に入ります。

QOakキャピタルには、どういう経緯で入られたのでしょうか?

Oakキャピタルは、PEファンドです。「事業再生・企業再生ができる人」ということで採用されました。

PE投資をしながら、投資先企業の経営の立て直しに入る仕事です。

Q立て直しに入るとき、どんなスタンスを取られていましたか?

もともと経営していた人に代わって、自分がやれるとは思わないんです。

だから、社長も役員もそのまま。自分はその横で伴走して、指導する。それが自分のスタンスでした。

Qそれは、口だけ出すということではないですよね?

ある程度のハンズオンはします。でも、やるのは「経営のやり方を変えていく」ことです。

人を入れ替えるのではなく、やり方を入れ替える。

この一節は、この記事のなかで最も辻さんらしい部分かもしれません。

再生の現場では、経営陣の交代が定番の打ち手です。前の経営陣を外し、ファンドが送り込んだ人間が指揮を執る。スピードは出ますし、話も早い。

辻さんは、そこを選びませんでした。理由は、謙虚さというより、認識です。その会社を作り、その会社をここまで持ってきた人の知識には、外から来た人間は敵わない。

だから、椅子は取り上げない。横に座って、やり方のほうを変える。

「人を入れ替えるのではなく、やり方を入れ替えるんです」

投資家としての辻さんの立ち位置は、ここで決まっています。「代わりにやってあげる投資家」ではなく、「横に座り続ける投資家」。のちにキャロットキャピタルで掲げることになる「投資後の経営支援」は、この時期に形になったものです。

07
SECTION 07

引き受けて、上げて、売る。

Oakキャピタルにいた辻さんは、グループの証券会社に出向します。

Q証券会社では、何をされていたのでしょうか?

グループのスターリング証券に出向しました。現在の株式会社UNIVA証券です。

やっていたのは、第三者割当増資を引き受けて、株価を上げて、高く売る。そういう仕事です。

Q何社くらいを担当されたのでしょうか?

Oakキャピタルと合わせて3年で、4社に関与しました。同時並行です。

スターリング証券は、第一種・第二種金融商品取引業と投資助言・代理業のライセンスを持つブティック型の証券会社です。上場企業を対象にしたエクイティ・ファイナンスの引受けと、M&A仲介・資金調達支援・IR支援といったアドバイザリー業務を手がけています。2025年4月に、株式会社UNIVA証券へ商号を変更しました。親会社のOakキャピタル株式会社も、2023年10月に株式会社UNIVA・Oakホールディングスへ社名を変わっています。

ここで辻さんが身につけたのは、上場企業側のエクイティファイナンスの実務です。

第三者割当を引き受ける側の目線。発行条件の算定。ディスカウント率。希薄化の説明。割当先の選定理由。反社チェック。株価がどう動き、既存株主がどう反応するか。

この経験が、いま二つの場所で効いてくることになります。ひとつはキャロットキャピタルでのスタートアップの資本政策の助言。もうひとつは、上場企業の取締役として、自分の会社の資金調達を組み立てる仕事です。

「同時並行で4社。引き受けて、上げて、売る。その現場に3年いました」

08
SECTION 08

「じゃあ、自分でやろう」。

3年で4社。企業再生とエクイティファイナンスの実務が、手の中に入りました。それでも、辻さんにはやりたくてできないことがありました。

Q当時、何を考えていらっしゃいましたか?

スタートアップの支援がしたかったんです。

でも、Oakキャピタルはベンチャーには手を出さない方針でした。

Qそれで、どうされたのでしょうか?

じゃあ、自分でやろう、と。

2022年4月、キャロットキャピタル株式会社設立。

Q資金は、どうされたのでしょうか?

完全に自己資金でやっています。

ここは、この記事のなかで最も静かで、最も重い一行かもしれません。

VCの多くは、外部からお金を集めてファンドを組成します。LPがいて、期限があり、リターンの説明責任があります。運用報酬という収益もあります。

キャロットキャピタルは、そうではありません。2022年11月に公表された琉球アスティーダの開示資料には、キャロットキャピタルの大株主と持株比率が「辻隆章 100%」と記載されています。

自分のお金で、自分の判断で、投資している。

Qこれまでに、何社ほど投資されているのでしょうか?

14社です。そのうち2社が、すでにIPOまたはM&Aに至っています。

「完全に、自己資金でやっています」

自分のお金だから、判断は自分だけのものです。そのかわり、誰も助けてくれません。この条件で14社に投資し、2社を出口まで運んだ。

そして、投資した会社に対して、辻さんは椅子を取り上げません。Oakキャピタル時代に決めたスタンスのまま、横に座ります。

社長の代わりはやらない。でも、隣にはいる。

09
SECTION 09

一番、苦しかった時期。

ここからは、辻さんが「一番苦しかった」と語った時期の話です。

Qこれまでで一番苦しかったのは、いつ頃のことでしたか?

キャロットキャピタルをやりながら、イメージ情報開発という上場会社の取締役をやっていた時期です。

Qそこでは、何が起きていたのでしょうか?

社長の交代と、新しいオーナーを迎え入れること。その両方を進めました。

詳しくは、IRに出ている情報をご覧いただくのがいいと思います。

言葉数は、多くありませんでした。上場企業の取締役という立場で話せる範囲には、線があります。ここから先は、辻さんの発言ではなく、公開されている開示情報からたどります。

イメージ情報開発が2026年1月29日に提出した有価証券届出書には、当時の会社の状態が、こう書かれています。

「当社は、業績の低迷、事業構造改革を行うための手元資金の枯渇、及び上場維持基準への不適合リスクという三重苦に直面しており」

さらに、こうも書かれています。2026年3月31日に上場維持基準に適合しない場合は監理銘柄、2027年3月31日に適合しない場合は整理銘柄となり、上場廃止となりかねない。

そこに提出されたのが、サイブリッジ合同会社を割当先とする第三者割当増資でした。発行株式数1,301,500株、発行価額1株461円、調達額は599,991,500円。同社は持株比率39.23%の筆頭株主となりました。

この届出書のなかに、辻さんの名前が繰り返し出てきます。

「サイブリッジグループの水口氏と当社の取締役経営管理部長の辻氏とは2021年から面識があり、以前より継続して相互のビジネスについて意見交換していました」

「当社からは常勤取締役である半田氏及び辻氏が議論に参加し、2024年11月から2025年9月まで打ち合わせを10回実施いたしました」

「当社からは常勤取締役である半田氏及び辻氏が主に議論を主導し」

打ち合わせは、2025年10月以降だけで18回。全体定例会6回、資本提携の分科会4回、SESの業務提携打合せ3回、オフショア2回、BPO及びプロダクト3回。

2026年1月22日、取締役会で社長が交代します。代永拓史氏が取締役となり、半田基実氏が代表取締役社長に就任しました。同じ取締役会で、別の第三者割当増資案を進める議案が否決され、サイブリッジグループとの案が承認されています。

そして、第三者割当増資の決議は、全会一致ではありませんでした。届出書には、こう記載されています。

「取締役賛成多数(4名中3名の賛成。1名の反対取締役は自身が取締役会に検討を進めることを求めた別の第三者割当増資案に賛成のため、本第三者割当増資案には反対の意思を表明)」

4名のうち、1名が反対した。そのなかで決議が通った。

上場廃止の期限が迫るなかで、5年越しに培った人脈を頼り、1年以上かけて相手を口説き、社長交代を伴う体制変更と6億円の資本提携を、反対者がいる取締役会で通す。

「一番苦しかったこと」という質問への答えとして、辻さんが挙げたのがこの時期でした。

「社長の交代と、新しいオーナーを迎え入れること。その両方を進めました」

そしてこの経験は、そのまま、キャロットキャピタルの商品になっています。上場企業の資本政策を、外から助言するのではなく、内側で当事者としてやり切った。投資先のスタートアップがいつか同じ局面に立ったとき、この経験を持っている投資家が横にいる、ということです。

辻 隆章
自分のお父さんのような人を捕まえて、いろいろと話を聞いていくといい
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SECTION 10

憧れの背中に、どっぷり浸かる。

Q最後に、これから社会に出る若い方に伝えたいことは何でしょうか?

雇われる側でも、雇う側でも、どちらでもいいと思っています。

ただ、とにかく自分の興味を見つけて、とことん追求していくことをやってほしい。

Qご自身を振り返って、そう思われるのでしょうか?

自分自身、すごく遠回りをしてしまいました。

金融の仕事を20代からやっていたら、別のステージがあったと思います。

研究者になるつもりだった大学院生が、技術商社に入り、外資系メーカーに18年、小売の取締役、通信の新規事業、PEファンド、証券会社を経て、53歳でVCを設立した。その道のりを、ご本人は「遠回り」と呼びました。

Qでは、若い人は何をすればいいのでしょうか?

年齢が上の方や、自分が志している業種の起業家に、どっぷりと浸かることです。

鞄持ちをするとか、毎週飲みに行くとか。自分のお父さんのような人を捕まえて、いろいろと話を聞いていくといいと思います。

そして、自分のレベルアップをしないといけない。

「自分のお父さんのような人を捕まえて、いろいろと話を聞いていくといい」

この言葉は、辻さんがいま港区でやっていることと、そのまま重なります。

港区立産業振興センターの公認メンター。EYアクセラレータープログラムのメンター。エクイティファイナンスの入門セミナー。M&A・事業承継セミナー。初めての資金調達ガイド。

自分が20代のときに捕まえられなかった「お父さんのような人」の席に、いま自分が座っている。

Qキャロットキャピタルとして、今後実現したいことは何でしょうか?

ベンチャーキャピタルと、インベストメントバンキング。その両方を通じて、企業価値の最大化に伴走していきたいと思っています。

スタートアップの成長支援と、上場企業の資本政策。その二つです。

EDITOR'S NOTE / 編集後記

スタートアップの成長支援と、上場企業の資本政策。並べて言えば二行ですが、この二つを同時にやれる人は多くありません。片方は、投資家としての目。もう片方は、経営者としての目です。

辻さんは、その両方を、遠回りの途中で拾ってきました。

半導体商社でマーケティングの型を覚え、外資系メーカーで18年かけて事業の現場を知り、小売の取締役会で決める側に座り、通信でゼロから事業を立ち上げ、PEファンドで再生の作法を学び、証券会社でエクイティの実務を身につけ、上場企業の取締役として資本政策を当事者としてやり切った。

どれか一つが欠けていたら、いまの「投資家だけではない投資家」にはなっていません。

遠回りだった、と本人は言います。

けれど、社長の椅子を取り上げずに、横に座って、やり方のほうを変えていく——そういう伴走ができるのは、その椅子に自分が座ったことのある人だけです。

代わりには、やらない。

その一言に、20年以上の遠回りが、ぜんぶ入っています。

辻 隆章キャロットキャピタル株式会社 代表取締役

キャロットキャピタル株式会社 代表取締役/元・イメージ情報開発株式会社 取締役。

1969年6月3日生まれ、和歌山県出身。岡山大学大学院工学研究科修了。研究者を志していたが、「企業には、理科系の視点でマーケティングができる人がいない」と考え、事業会社へ進む。

1995年、株式会社マクニカ入社。約3年間、BtoBマーケティングを担当。1998年、日本ゴア株式会社へ移り、以後18年にわたりマーケティングと営業に従事する。2016年、早期退職の募集に応じて同社を退社。「ぬるま湯に浸かっていてはいけない」という判断だった。

その後、株式会社メガスポーツ(スポーツオーソリティ)に取締役として2年間経営参画。株式会社光通信では新規事業立ち上げのオファーを受け1年間従事。次いでOakキャピタル株式会社(現・株式会社UNIVA・Oakホールディングス)へ入社し、PE投資および投資先企業の事業再生・経営支援を担当。グループのスターリング証券株式会社(現・株式会社UNIVA証券)へ出向し、上場企業の第三者割当増資の引受けとエクイティファイナンス支援に携わる。Oakキャピタルと合わせて3年間で4社に同時並行で関与した。

2022年4月、キャロットキャピタル株式会社を設立。完全自己資金による独立系VC・投資会社として、スタートアップへの投資と投資後の経営支援を行う。これまでに14社へ投資し、うち2社がIPOまたはM&Aに至っている。公開されている投資先に、株式会社Zenmetry、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社がある。

2023年6月、東証グロース上場のイメージ情報開発株式会社 取締役経営管理部長に就任(2026年6月退任)。経営管理、IR、企業投資、M&Aを担当し、2026年1月に公表されたサイブリッジグループとの資本業務提携(第三者割当増資 約6億円)では、社内の主導者のひとりとして交渉を担った。

港区立産業振興センター公認メンター。EYアクセラレータープログラム第5期メンター(VC/CVC)。スタートアップとVCの交流会の開催と、トライアスロンを趣味とする。

キャロットキャピタル株式会社

所在地:東京都港区芝5-36-4 札の辻スクエア9階

設立:2022年4月18日

代表者:代表取締役 辻 隆章

事業内容:投資事業並びに有価証券の売買、保有及び運用事業(スタートアップへの投資および投資後の経営支援、資金調達・経営戦略・M&A・IPO支援)

法人番号:2010001226112

X(旧Twitter):https://x.com/tsujitakaaki

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